今月の読本「姨捨の棚田ガイドブック」(千曲市文化財センター編 ほおずき書籍)こんな散策総合ガイドが欲しかった

長野県は教育立県とも呼ばれ、地方にも拘らず古くから出版業が盛んな事でも知られていますが(ぎょうせいの本店も長野ですね)、一般書籍として現在まで刊行を続けている出版社は決して多くはありません。

そんな中でも、以前このページでも紹介した『信州パノラマガイド絵図』を出されている信濃毎日新聞社は積極的な出版活動を続けていますが、それに続く出版社が今回紹介する版元のほおずき書籍です。

中堅出版社並みの編集能力を有する信濃毎日新聞社の刊行物と比較すると、編集レベルも装丁も一段劣るのはやむを得ないことかもしれませんが、個性的なテーマに挑戦している点では何ら劣るわけではなく、むしろ教育関係や市民レベルの研究をテーマにした出版物など、自主編集主義の信濃毎日新聞社が扱わないような持ち込み企画などを積極的に取り扱う出版社です。

今回ご紹介するのも、そんな持ち込み企画であろう一冊です。

姨捨の棚田1千曲市文化財センターが編集する『姨捨の棚田ガイドブック』です。

編者から察すると容易に判る事ですが千曲市の刊行物という扱いなのでしょうか、グラビア装丁のオールカラー100ページで何と驚愕の500円しかしないのです。

この出版不況のもと、多くの出版社さんが値上げを我慢して色々とコストを下げる装丁に苦労されている中で、千曲市の補助があったと思われますがこれほどの装丁品質でこの価格は正直「卑怯」かもしれませんね。

そんな一般書籍と争わせるのは少々厳しい(そもそも長野県外での入手は極めて困難…かと思いきやAmazonでも購入可能)な今回の一冊ですが、内容の完成度の高さは価格以上に驚異的です。

よく、この手のページ数の少ないガイドブックでは観光客向けのガイドに特化するか、はたまた研究者向けの紀要みたいな一般人が読んでもあまり理解しがたい学研的な内容に終始するかのいずれかなのですが、本書はどちらにも当てはまらず「棚田の総合ガイド」という体裁を取っているのです。

姨捨の棚田2もちろん、研究機関である文化財センターが編纂しているため、こちらのような棚田の変遷を記録した航空写真など貴重な資料もカラーでふんだんに掲載されています。

姨捨の棚田3このように、棚田の歴史的な変遷と地籍の変化など考古学的記載にも意を尽くしています。

特に棚田への利水、水源地としての大池の解説には非常に力を入れており、棚田を成立させる周辺への目配りの良さは流石に研究機関の編纂物です。

一般的な棚田の入門資料としても優れていますし、水田や稲作にまつわるテーマにも触れられているので、里山一般の資料としても活用できます。

姥捨の棚田5

ここまではどちらかというと学術的な記述が続くのですが、さすがは古くから名勝として名を馳せた姨捨の棚田です。

姨捨の棚田4こちらのような文学で扱われる「田毎の月」に関しても、その由来から名称となった場所の歴史的変遷、謙信や真田など歴史的人物による手記の紹介、更には芭蕉やその他の歌人が詠んだ歌碑の紹介(こちらもオールカラー)までと、地理学だけではなく歴史、文学に渡って名勝姨捨の棚田をくまなく紹介しています。

姥捨の棚田6そして、ガイドブックですから散策ガイドもちゃんとついています。

姥捨の棚田4これほどまでに豊富な内容と、解説が備わったガイドブックはそう簡単に見かけるものではありません。どうぞ、お手に取って今年の仲秋は姨捨の田毎の月を楽しんでみては如何でしょうか。

ただし、懸念点として発行部数が極めて僅かな750700部(信濃毎日新聞6/19記事より)と限られていますし、再版は絶望的なので、書店等で見かけられたら迷わず入手されることをお奨めします(長野県内であれば、平安堂が入手しやすいのではないでしょうか)。

<おまけ>

ほおずき書籍さんは色々特徴のある出版物を刊行されています。手持ちの中から何冊かご紹介を。いずれも長野県外では入手困難な本ですが、非常に貴重な内容が含まれていますので、手に入るようであれば是非ご一読を。

ほおずき書籍の本達

  • 今回ご紹介した本と同じような編集方針で纏められた長野県の地学の入門書。地学とはどれだけ広い学問領域かを理解するためにも役に立つ『長野の大地 優しい地学小辞典』(地学団体研究会長野支部「長野の大地」編集委員会編)
  • 地元の八ヶ岳を研究しているチームの30年に渡る研究成果を纏めた一冊。八ヶ岳の総合ガイドとしては出色かつ、現状唯一の一般書籍『八ヶ岳火山 その生い立ちを探る』(八ヶ岳団体研究グループ編著)
  • 草原の植生と利用に関する歴史的な経緯(縄文から近世まで)、そして現在の問題である食害まで、こちらも総合的な解説書となっている一冊。比較として阿蘇の草原を持ち出している点が長野の出版物としてはちょっと異色な『信州の草原 その歴史を探る』(湯本貴和、須賀丈編著)
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