今月の読本「竜宮ホテル」(村山早紀 徳間文庫)貴方がそこに居る意味

年々老いてくる両親の顔を見る度に心が痛み、姪たちの成長が眩しく感じられる、久しぶりの帰郷。

どんなに遠く離れて住んでいても、普段は完全に忘れようとしていても、会ってしまえば、家族である事は容易く切り離せるものではないと痛感してしまう年末年始。

普段はなるべく考えないようにしている、「家族の繋がり」などを再認識する為に年末年始があるのだろうか等と自問自答しながら手に取った今回の本。

前回ご紹介した「ルリユール」の著者である村山早紀さんが、私とは全く異なる20~30代前半の女性層をターゲットに執筆された文庫作品が、版元を改めて、より一般的な読者向けとして収蔵された一冊「竜宮ホテル」(徳間文庫)です。

竜宮ホテルターゲット年代の女性が喜ぶというより、むしろあっち系の男子が喜んでしまいそうな意匠の表紙(色遣いなどはきっちり女性向けなんですけど…猫耳しっぽですね)にちょっと驚かされながら、すわ恋愛物かと言えば差に非ず、著者お得意のファンタジーを下敷きにした大人のお伽噺が繰り広げられます。

では、お伽噺なのだからどんなシナリオが展開でも許されるのかと言いますと、そこは著者の矜持が為せる業。シナリオの奥底には他の作品と同じ旋律が流れています。

主人公にも登場人物にも著者特有の決まり事が当て嵌められています。心に幾ばくかの苦しみを抱えている事、それでも誠意のある事、他者の為に在りたいと願う事、信じる事…。近親者との微妙な関係や、物語に通底する死の影等が更に積み重なれていきます。

そんな登場人物たちが抱えている困難に僅かばかりの光を当て、「魔法」でも良いでしょう、「妖術」かもしません、「SF」という調味料を使う場合もあります、「奇跡」という単語を用いる場合もあります。どのような手法にせよ、人の力が及ばない何かによって苦しみの想いをほんの少しだけ癒していく…。

著者が一貫して用いている表現手法。つまり、著作を通じて普遍的に述べたいと願っている根底に通じる想いがそこにあります(私自身は「赦し」ではないかと思っています)。

今回の作品では、大戦によって崩壊しかかって再建途上のホテルが舞台。ホテルが存在する街はお約束の場所ですが、主人公たちの心象描写として用いられる程度、殆どがホテルや部屋の中、カフェなどの閉じられた空間で物語が進んでいきます。代わりに、書き下ろしの番外編を含めて回想シーンに出て来る山野や見知らぬ国の物語には著者の本分でもある児童文学者としてのファンタジー性が色濃く反映されています。

冒頭から、再建途上で居住も認めている竜宮ホテルに逗留することになる事情までの導入部はちょっと長め。その間に回想を繰り返すことで、家族、周囲に対する自己否定の想いを積み重ねていきます。まるで自分を責め立てていくように、私の存在が不幸を呼ぶものだと問い詰めさせていきます。その想いが行き着く先には、最後の「避難場所」たる居住していたビルの崩壊。否応無に物語の舞台に引き出されていきます(いや、誘われていきます)。

そんな自己否定の想いを解きほぐしていくために用意された舞台である竜宮ホテル。主人公である女性作家を舞台にいざなってくれるのは、若い編集者とその父であるホテルオーナー、そして彼女にある事を伝えるためにやって来た妖怪の少女(表紙絵ですね)。

彼ら(彼女ら)は彼女の存在する本当の意味を諭していきます。決して存在しなくていいなんてことはない、あなたの存在がどれだけの人の心を動かしてるのかを彼女に対して伝えていきます。

本作中では竜宮ホテルが再建途上であるように、彼女の心の鎖も未だ解き放たれている訳ではありません。しかしながら、竜宮ホテルに集う不思議な人々の力を借りながら、少しずつ否定し続けてきた想いを昇華していきます。

過去の自分を、今を生きている自分を、未来の自分を、そして誰かを否定してしまった自分を。

頼る事は恥じゃないんだよ。所詮は頼りあって生きていくものなのだから…。

彼女を想う周囲の気持ちを、彼女がちゃんと受け止めることができるようになった時、舞台である竜宮ホテルも再建が叶うとき。不思議な住人達も彼女も竜宮ホテルからいなくなっている筈です。本当の居場所を得て、ひとりひとり次のステップへと進んでいく。

ホテルとは、次の1ページをめくるための、ほんのひと時の休息場所なのですから。

<おまけ>

  • 研究生活から社会人へと進んでいた頃、研究室や会社に泊まりっ放しになるのは日常茶飯事。一旦社外に出れば現場の近くのホテルでビザが切れるまで粘り続ける日々を送っていた私にとって、本作の舞台やシチュエーションはちょっと美し過ぎるにせよ(いや非常に美しい)、今や懐かしさで語れる思い出の琴線に触れる一瞬でした
  • 本作には12月に続編となる「竜宮ホテル 魔法の夜」が刊行されています。物語の続きに興味がおありの方は是非
  • 本ページでご紹介している村山早紀さんの著作についてはこちらにて
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今月の読本「竜宮ホテル」(村山早紀 徳間文庫)貴方がそこに居る意味」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 村山早紀さんの著作とSNSと伝えたい想い(コンビニたそがれ堂からルリユール、竜宮ホテルへ) | 八ヶ岳の南麓を彷徨って

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