今月の読本「スズメ つかず・はなれず・二千年」(三上修 岩波科学ライブラリー)柔らか科学本が語る「何も判っていない隣人のこと」

ライトな科学本は大好きで、結構買うのですが、こちらの本は大変人気があったようで、どうにも入手できずにやむを得ずネットで購入した一冊。

10月に刊行されてから3か月で4刷まで進むのは科学本としては異例の筈。岩波書店の販売ランキングでも最上位にランキングされ続けた大人気の一冊、岩波科学ライブラリー#213「ズズメ つかず・はなれず・二千年」(三上修)のご紹介です。

スズメ・表紙この可愛らしくも、ちょっと哀愁漂う、肩を寄せ合うスズメの背中のイラスト。これだけでも掴みは充分ですが、渋めの色調と相反するようなキャッチーな帯のコピー。背表紙に廻ると「ザ・普通」と挑戦的なキャッチと、切り抜き写真をぺたぺたと張ったpopな装丁が「普通の科学本じゃイヤ!」という、著者、編集者の強い主張が滲み出ています。

スズメ・表紙と背表紙頁をめくっていけば、可愛らしいイラスト満載、カラーページもふんだんに盛り込まれていて、これなら1500円も仕方ないかな、と思わせる豪華なページ構成です(ちなみに、イラストは著者と同郷の漫画家、とりの なん子さんの全面描き下ろしという豪華さ)。

特に、この手の野生生物を扱った本で必ずチェックしたいのが、ライフサイクル図なのですが、とりの なん子さんの可愛らしく、鮮やかな見開きイラストが目を見張ります。本書がただの科学本に留まりたくないという想いが、全面に現れているようです。

スズメ・ライフサイクルイラストページ数は僅かに100ページそこそこ。その気になれば数時間で読み終わってしまうボリュームなのですが、生物学的歴史、生態、人との関わり、文化的な位置づけから、長く続いた害鳥としての歴史、そして現在のスズメの置かれた状況と、見事に網羅されています。また、著者が観察方法と一緒に添えている豊富な写真はウォッチングガイドとしての役割も果たしてくれます。

あとがきを読ませて頂くと、編集者とのかなりの格闘があったようですが、研究者の方が書かれるポケットブック等で時に見られる、学術論文の紀要のような味気ない文体ではなく、どちらかというと、自然観察ガイドの方が書かれたような親しみやすさと、それでいて科学本としてのセオリーは守る編集方針を押し切った編集者の勝利、だったのではないでしょうか。

編集方針については大成功だったようですが、実は中身を読んでいくと少々気になってしまう点が出てきてしまいます。

およそのライフサイクルは判っているのですが、彼らが何処から来て、何処で過ごしているのか。どの位の子供を産んで、どの位の範囲で広がっていくのか。どの位生きられるのか。何を、どの位食べているのか…。

一応、概略的な事例は示されているのですが、引用史料が害鳥として捉えられていた戦前から戦後の高度成長期頃までのデータも多く、現状がどうなっているのかについて疑問が湧いてきますが、残念ながら本書は明快には答えてくれません。

そして、一章を割いてスズメが減少しているという傾向について述べられているのですが、減少している原因について明確な答えは示されていません(著者は泥沼という表現を以て、調査が依然として手探り状態である事を認めています)。

引用文献の古さ、執筆者の偏り(特にスズメの減少に関する部分では、著者が執筆したものが多数を占める)事からも、最も身近な鳥類であるはずのスズメの研究の実情が、かなりお寒いものである事を暗示しています。

そう、本書はもっとも身近な隣人、人無くして生きていけない不思議な野生生物であるスズメを楽しく観察しながら、みんなで考えてみませんか?と、訴えかけているのかもしれません。

摩訶不思議なあとがきの一文と共に、装丁の可愛らしさとは裏腹に、妙に引っかかるものが残る不思議な一冊です。

<おまけ>

本ページでご紹介している生物に関する書籍を

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今月の読本「スズメ つかず・はなれず・二千年」(三上修 岩波科学ライブラリー)柔らか科学本が語る「何も判っていない隣人のこと」」への4件のフィードバック

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