今月の読本「カヤネズミの本」(畠佐代子 世界思想社)小さな隣人を通じたフィールドワーク研究者の物語

2週連続の大雪対応で、あらゆる事が中途半端になりかけている2月。

漸く落ち着きを取り戻してきた週末にかけて、まずは少しずつ読みかけの本をこなしていきます。

今回は何時ものように、週末の本屋さん巡りの最中に偶然見つけてしまった1冊のご紹介です。

カヤネズミの本八ヶ岳南麓、清里の観光スポットである清泉寮のすぐ近くに、同施設と同じキープ協会が運営する「やまねミュージアム」という、小さな小さな博物館があります。天然記念物でもあるヤマネの冬眠シーンが観察できることでも有名なこちらの施設による積極的な広報活動により、厳冬期の寒さを和ませる格好なテーマとして頻繁にマスコミに登場、ヤマネもすっかり有名となりました。

そんな小さな動物たちの中でも極めて地味ながら、ネットを使った生息域調査などを通じて、一部の方々には極めて有名な存在となっているのが「カヤネズミ」と呼ばれる、小さな小さなネズミです。本書は、この活動の創始者であり、活動団体「全国カヤネズミ・ネットワーク」の代表も務める畠佐代子さんの最新著作である「カヤネズミの本 カヤネズミ博士のフィールドワーク報告」(畠佐代子 世界思想社)です。

まず、この手の本の宿命(マイナーなテーマ+オールカラーx研究者の著作=発行部数が少ない=>お値段に跳ね返る)として、極めて安価な設定ではありますが、100ページほどの本としては決して気軽に買える価格でもありません。また、フィールドワークの際に撮影された貴重な写真の数々が紙面を飾りますが、ヤマネやその他著名な動植物で見られるプロの写真家の方が出される写真集のような華麗さがある訳でもありません。更に言えば、最近頻繁に見られるようになった「柔らか系」の動植物を扱った本が得意とするノリの良さや、凝ったグラフィックも見かけません。装丁も、フォントも、用紙も、図表構成も、どちらかというと、昔、学校の図書館にあった「動物百科」のページをめくっているような、ちょっと古風な佇まいを見せています。

そんな少し大人しい体裁を取る本書は、あくまでも「フィールドワーク」に生きてきた著者が、その研究テーマとしてずっと追い続けている小さな隣人たちをどう理解して、どう知ってもらい、どう一緒に生きてい行けるのかを、優しい文章に包みながら綴る、カヤネズミの研究レポートの形を借りた、ある研究者の物語としての一冊です。

そのような研究者としての、フィールドワークを通じて書かれた一冊でもあるため、本書の過半のページはフィールドで最も見つけられやすかったであろう、カヤネズミの巣のお話で占められています。特徴的な巣の利用法、季節による巣材の変化、巣のお引越しと、豊富な写真と事例を交えて説明が続きます。この部分に関しては研究者の著作らしく、しっかりグラフなども掲載されていきます(近著で類似性の高い、岩波書店の「スズメ」では編集者の方との格闘の末、バッサリ切られたことが著者のあとがきで述べられています)。

巣の説明が終わると、今度は巣の主たちであるカヤネズミの生活のお話に移っていきますが、ここから著者とカヤネズミの付き合いの物語が徐々に語られていきます。フィールドワークを進めていく途上で頻繁に向き合う事になる、カヤネズミの生活環境が如何に人と深い関わりを持っているのかという事を。それは、もっとも身近な存在にも拘らず、生態があまり理解されていないスズメにも通じるところがあります。

その結果、著者とカヤネズミとの物語は、単に小哺乳類の研究としてではなく、人間生活、特に農耕や環境開発との関わり合いに踏み込んで行くことになります。そこには、現在注目を浴びている「環境科学」「環境生物学」といった、我々人間と環境(自然とは限りません)との関わり合いという、普遍的なテーマが横断する領域。単に生物学的に生態を研究するのではなく、社会学の一分野として人間生活そのものに関わっていく研究。著者は、この広大な研究領域をカバーする為に必須となる、幅広い情報を集める手法として、当時としては画期的なネットによる情報提供を呼び掛けるという活動に着手、現在の全国カヤネズミ・ネットワークの活動に繋がっていきます。

カヤネズミという小さな小さな隣人を通して、我々人間と環境との接点を見出していく遠大な研究活動のほんの一ページを見せてくれる本書は、著者が、そのその途上で感じた想いそのままに、可愛いらしいカヤネズミの写真の背景に広がる人々の生活と環境に、もっと、もっと目を向けてみませんかと、問いかけているのかもしれません。

<おまけ>

本ページで扱っている、同じような話題と、生き物関係の書籍のご紹介

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今月の読本「カヤネズミの本」(畠佐代子 世界思想社)小さな隣人を通じたフィールドワーク研究者の物語」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: 今月の読本(PDF編)「ぎふの淡水生物をまもる」(楠田哲士編 岐阜大学応用生物学部動物繁殖学研究室)もっと知ってほしい地元の淡水生物 | 八ヶ岳の南麓を彷徨って

  2. ピンバック: 今月の読本「図鑑大好き!」(千葉県立中央博物館監修 彩流社) | 八ヶ岳の南麓を彷徨って

  3. ピンバック: 文学と自然が織りなす高原の小さなミュージアムで静かな夏休みを(富士見町・高原のミュージアムと自然写真家、西村豊さんの写真展) | 八ヶ岳の南麓を彷徨って

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