今月の読本「縄文土偶ガイドブック」(三上徹也 新泉社)バランスの良い「見るための」土偶ガイドと考古学者の想い

八ヶ岳の周辺は縄文文化が大きく花開いた土地。数多くの遺跡や立派な博物館、国宝にも指定される土偶など、豊富な史跡、遺物に恵まれています。でも、縄文文化の基礎知識がないと、折角見学に行っても楽しさ半減。出来れば事前学習をしておきたいところです。

そんな需要に応えるかのように、最近は色々な縄文関係の書籍が出回ってきていますが、刊行されている書籍には大きく2系統に分かれるようです。

一つ目は、所謂ガイドブックや歴史雑誌、美術書の延長に位置する「観るための」ガイドブック。主に縄文土器や土偶の芸術性やデザインの面白さをピックアップしたグラビア重視の本。こちらが最近主流のように思えます。

もう一つは、旧来からある考古学的知見に基づく「考えるため」の書籍としての出土品の解説書。こちらは地質学的な知見から入って、縄文土器や土偶の分類学的な記述が続きます。

どちらの本も目的に応じて読めばよいのでしょうが、片やグラビアが全面に出過ぎていて内容がちょっと不足気味、もう一方は学術的過ぎて、逆に興味が遠のいてしまうような専門性の高い著作が結構多くて、気軽に読むにはちょっと腰が引けてしまいます。

そんな中で、バランスの良い入門書はないものだろうか、特に興味深い土偶の事が判り易く記述された本が無いかと探しているうちに行き着いたのが、今回ご紹介する一冊「縄文土偶ガイドブック」(三上徹也 新泉社)です。

縄文土偶ガイドブックこちらの本、縄文遺跡の大集積地帯である長野県、中でも特に集積している八ヶ岳界隈のすぐ近くでもある上伊那農業高校で教員を務めていらっしゃる方が執筆されています。現在では、所謂在野の郷土史家と呼ばれる範疇にある方ですが、縄文文化の研究者に贈られる尖石縄文文化賞の2009年度(第10回)受賞者でもあり、その研究成果には高い評価が与えられている方です。

そのような郷土史家の著作の場合、ご自身の研究成果を全面に押し出した著作が多いのですが、本書は全く方向性が異なり、高校教員でもある著者の経歴が存分に発揮されたと思われる、平易で判り易く、読みやすい文体で、全縄文期、全国に渡る縄文土偶について、網羅的に丁寧な解説が施されています。殆どの土偶は一万年にも渡る長期の間、変化を遂げながらも、ある一定の法則性を持って製作された物であると、考古学が得意とする分類手法を駆使して解説していきます。

特に読んでいて嬉しかったのが、考古学知見に基づく書籍の場合、どうしても避けられない、極めて煩雑な地層や年代、形式による分類がすっきりとシンプルに纏め込まれている点です。もちろん系統図も出て来るのですが、こちらも類例が絞り込まれているので、初学者にはいたずらに紛らわされずに済むだけでも、随分読むのが楽になります。

そして、グラビア性も充分な巻頭カラーに多数の土偶写真を掲載しているにも関わらず、当該土偶の解説文を掲載するページの近くには敢えてモノクロの写真もカットを変えながら繰り返し掲載する。口絵と読んでいるページを行き来することで、読書の集中が途切れてしまう事を防ぐ嬉しい配慮も、やはり著者の経歴が為せる事なのでしょうか(編集者の方の配慮かも知れません)。

配慮が嬉しい編集と、平易な文章に身を委ねて読み進めていくと、極力一般的なガイドブックとしての体裁を取る事に意を砕いているのですが、所々で縄文文化の研究者としての著者の想いが織り込まれているようです。

考古学者を標榜した場合、なかなか踏み込めない領域。土偶はどうして、何の為に作られたのか。そして、何故作られなくなってしまったのか。変化、変遷を語る事は出来ても、事象を語ることが出来ないジレンマが垣間見えてきます。

著者はその都度に民族学、民俗学を援用しながら説明を加えていきますが、どうやら著者の想いは援用している民族学、民俗学とは別の所にあるようです。それは、考古学者としての考察と歴史研究家としての想いが交差する場所。

壊れた形で発掘される土偶たち、正立することが困難な土偶たち(かの縄文のビーナスも足が段違いになっています)、殆どの土偶に共通する小さな穴と…。

最終章で展開される著者の見解に対しては、読まれた方によって色々な想いがあるかもしれませんが、そのように自由な見解で発想を広げられるのが、縄文文化を考える際の良い所なのかもしれません。なにせ、人の心と想いは考古学を以てしても届き得ないのですから。

井戸尻遺跡の復元縄文竪穴式住居

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今月の読本「縄文土偶ガイドブック」(三上徹也 新泉社)バランスの良い「見るための」土偶ガイドと考古学者の想い」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 「仮面の女神」国宝指定記念で無料公開中の茅野市尖石縄文考古館へ | 八ヶ岳の南麓を彷徨って

  2. ピンバック: 桜の後は井戸尻考古館へ(縄文土器の集う里) | 八ヶ岳の南麓を彷徨って

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