今月の読本「水の歴史」(著:ジャン・マトリコン、監修:沖大幹、訳:遠藤ゆかり 創元社「知の再発見」双書)普段はあまり気にしない水の物語を、近代水道発祥の国より

ゴールデンウィーク中にコツコツと読んでいた本のご紹介。

2冊目のこちらも、読み終わるのにちょっと時間がかかってしまいましたが、実に興味深い内容の一冊としてご紹介します。

創元社の「知の再発見」双書は、少しミステリアスな装丁と、原著がフランスで刊行されているからでしょうか、日本の書籍とは全く異なる体裁の凝った編集、刺激的な筆致がいつも驚かされる、他に類例を見ないシリーズです(国内編集で、フォロアーと類される書籍も見受けられますが、そのセンスは決して真似の出来る物ではありません)。

私もそのセンスに惹かれて買う度に、そして読む度に、いずれもちょっとした疑問を読者に残しながら、知的好奇心を揺さぶってくれる。知識の「玄関口」として、いつも楽しませてもらっています。

そんな好奇心を誘うシリーズの最新刊は、またしても不思議な表題を掲げた一冊です。

水の歴史No.163「水の歴史」です。

本シリーズを愛読されている方なら「ああ」といって大体内容は読めていらっしゃるのではないでしょうか。

そうでない方のためにご説明すると、本シリーズは基本的に二つの側面からテーマを読み解いていきます。一つは科学的なアプローチによる解説、もう一つは歴史的、もしくは文化的な側面からのアプローチです。

本書も、前半2章に渡っては水の化学的特性や、地球環境のにおける水の位置づけの解説がなされています。

本シリーズの特徴でもある、豊富な写真と、趣のあるイラストを駆使した解説は、文系の方でもほとんど抵抗感なく、極めて特異的である「水」本来の姿を捉えられるのではないでしょうか。そして、全宇宙的に見てもこれだけの豊富な水が存在することの不思議さ、貴重さに気付かされると思います。

3章から先は歴史的なお話、人がどのように水を使ってきたかのお話が展開されます。我々が当たり前に思っている水田の稲作がどれだけ大量の水を使っているのかに驚かされるかもしれません。そして、その水資源は極めて偏在していることも。続く4章は本書の白眉、原著がフランスで刊行されたことを実感させられる水道の歴史です。

フランスが先頭を切った、巨大な水資本(上下水道をベースにした公共サービス会社)の話は、国内でも最近になって地方公共団体の積極的な海外への技術提供や、逆に彼らの国内公共サービスへの参入の話題が聞かれるように、水ビジネスはもはや世界的な産業に成長していることを実感させられます。その世界的な産業、しかしながら偏在する資源、しかも輸送方法が一般の鉱物資源のように掘削して運搬する訳ではなく、上流から下流に流れる川から引き込み、そして使った「排水」は川へ戻す。その土地と密接に関わる資源故に、激しい国際紛争に見舞われることもきっちりと述べられていきます。

日本人にはあまりにも遠くの話に聞こえてくるこれらの話題。しかしながら、92ページの世界地図をご覧いただくと「おやっ」と思われるかもしれません。モンスーン気候によって降雨に恵まれているはずの日本ですが、実は一人あたりの水資源量でみるとヨーロッパと同じくらい、砂漠のイメージが強いイランやイラクと大して変わらない事が判ります。

実は日本の水資源は、川が短く、すぐ海に流れてしまうこともあり、決して豊かなわけではないのです。毎年冬場や夏の時期に聞かれる、四国や首都圏(利根川水系)の渇水を見ても判るように、日本も他人事ではない話なのです。本書を読まれると、大陸の各国がそのような時に取る手段が、結果として水資源のアンバランスな収奪と、激しい紛争を巻き起こしていることに気が付かれるかと思います。

残念ながら本書は訳本という制約上(沖大幹先生の詳細な序文および解説文で補足されてはいますが)、日本の話題は全く出てくることはありません。それでも、本書のカラーページをお読みになって、更に疑問が湧かれた方は、後半のモノクロページに進んでいただければと思います。

本シリーズではおなじみの、より詳細な事例に関するコラムが展開する後半の部分は、毎度の事ながら、かなりハードな内容が続きます(難しいという訳ではありません。厳しい内容という意味です)。そんな中でも、No.2の浴槽の歴史のように、他ではまず見る事が出来ない、ちょっと貴重なお話も出ています。

普段あまりにも無関心な我々の水に対する意識を少し改めさせてくれる一冊。原著の刊行は2000年と少々古いのですが、現在読んでも全く色褪せない、人にとってかけがいのない「水」の物語に、もう少し目を向けてみては如何でしょうか。

新緑の多留姫の滝1電気化学工業大網発電所ダム1

滝壺の水流を野反湖から秋山郷を望む緑に光る流れを

 

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