今月の読本「図鑑大好き!」(千葉県立中央博物館監修 彩流社)

今回のご紹介は、SNSで見かけて偶然に本屋さんで入手できた一冊。

男の子なら、誰しもが子供の頃に通過する「モノへの興味」。興味の対象はそれぞれ違うと思いますが、溢れるばかりの好奇心を満たしてくれる大切な宝物の一つに「図鑑」があったかと思います。

子供の手にはちょっと余る大きなページいっぱいに、美しい写真やイラストが散りばめられた図鑑を眺めているだけで、時が経つのを忘れてしまいそうになったあの頃を思い出してしまう。そんなきっかけを再び作ってくれる一冊です。

7/19から10/13まで、千葉県立中央博物館で開催される予定の企画展「図鑑大好き!」に先立って刊行された、題名もそのまま「図鑑大好き!」(彩流社)です。

図鑑大好き!ややカウンターカルチャー的な本を出される版元さん。八ヶ岳南麓に住んでいる身としては「諏訪神社 謎の古代史」という、少々不気味な表紙と、自費出版的な粗い構成の書籍を出されている会社という、かなりマイナーなイメージしかなかったのが現実です。一方でトム・ソーヤの冒険でおなじみの、マーク・トゥエインの全集を取り扱っていたり(国内唯一)、現在放映中の「花子とアン」に合わせた作品である「快読『赤毛のアン』」を刊行するなど、北米系の文学、文化的なテーマを扱った書籍も得意としているようです。

そんな版元さんが送り出した本書は、極めて珍しい地方の公共博物館が主催する企画展の公式解説書として位置付けられた一冊。刊行目的からも判りますように、お値段は少々高め(フルカラー110ページで2000円)なので購入するにはちょっと気が引けてしまうのですが、類書が少ない分、そのテーマ設定と内容には興味深いものがあります。

まず、冒頭の誰しもが懐かしさを感じる、清水勝による里山の景観の中に動物たちをはめ込んでいく、往年の図鑑独特のイラストから、ダーウィンのフジツボ図鑑、そして手塚治虫の手による、ペンネームの元ともなった著名な昆虫イラストのカラーグラビアに興味を持たれた方なら、そのままお買い上げになっても、決して後悔することはないでしょう。

続けて登場する、図鑑に対する想いを語るページには、やくみつる、柳生真吾、さかなクン…と、地方の公共博物館とはいっても、多くの人口を有する千葉県が主催する展示会らしく、豪華なメンバーのインタビューが続きます。彼らが語る図鑑に対する愛好心と、ボロボロになった図鑑たちの写真を見ると、「モノ」に惚れ込んでしまった子供心のままに成長されたんだなと、ちょっとほほえましく感じてしまいます。そして、図鑑好きを熱中させる、作る側の図鑑に対する想いが続けて語られていきます。

図鑑を愛する方々の想いと、より正確で、美しい資料としての図鑑を届けたいと想う作り手の熱意がインタビューから伝わってきます。

前半はどちらかというとインタビュー中心で、カルチャー雑誌のようなエンターテイメント性を重視して纏められていますが、後半に進むと、本来の刊行目的である、博物館の展示会解説書であることを明確に見せ始めます。図鑑の歴史、図鑑の表現方法や検索方法についてのお話が続きます(巻末に、さりげなく科研費研究の成果であることが記載されていますが)。

更には、学芸員100人へのインタビューによる、お勧め図鑑の紹介と、テーマ別に一押しの図鑑を紹介する「使える図鑑」のコーナーという、実践的かつ各図鑑出版社さんにとっては気になるページも用意されています。

紹介されている図鑑を見ていくと、入門向けやマニアの方がくすっと笑ってしまうツボを押さえたコンパクトな図鑑を積極的に出されている文一総合出版さんの本が目立ちますが、ヒットを記録した講談社のDVD付図鑑「MOVE 鳥」も掲載されていますし、本書の読者層が購入するとは思えませんが、さかなクンも紹介している東海大学出版部が誇る最大の魚類図鑑でもある「日本産魚類検索 全種の同定」が掲載されている点は嬉しい反面、この分野に相応しい入門編の図鑑が無い事を暗示しているようです。

本書を読まれて、再び図鑑への興味を持たれたならば、本屋さんに豊富に並んでいる美しい図鑑の中からお気に入りの一冊を見つけて眺めてみるのは如何でしょうか。子供の頃に抱いていた好奇心という名の想いが、再び蘇ってくるかもしれませんね。

最後に要注意点を一つだけ。

本書は図鑑の楽しさを伝えることをテーマにしていますが、副題にあるように、都市部に住んでいる方(特に親子)が、図鑑を通して身近の生物たちに興味を持ってもらうことを念頭に置いています。そのため、図鑑の歴史といっても所謂「生物学習図鑑」を前提としており、博物学全般や地球科学、歴史、男の子が大好きな工業分野の図鑑は取り扱われていません。

その結果、取り扱われている図鑑の種類も、昆虫、植物、野鳥、潮溜まりの水中生物といった千葉県在住者にとって身近なテーマに絞られているのはちょっと残念なところです(動物、淡水魚、そして子供たちが大好きな両生類の図鑑が本編で欠落しているのはかなり痛い所ですし、編者の方々の環境がダイレクトに反映しているように思われます。特に動物については参照項目もありません)。

巻末に並べられている学芸員さんお勧めの図鑑も、博物館を訪れる家族連れにとってはとても役に立つと思いますが、本書のインタビュー記事に興味を持たれたり、本書自体に興味を持たれる読者の方々は間違いなく「本物の図鑑好き」だと思いますので、本書の刊行目的と編者に対する読者層のギャップを感じるところです。

<おまけ>

本ページで扱っているいきものの本をご紹介

 

広告

今月の読本「図鑑大好き!」(千葉県立中央博物館監修 彩流社)」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 今月の読本「未来のだるまちゃんへ」(かこさとし 文藝春秋)まっすぐに見つめ続けることの大切さを | 八ヶ岳の南麓を彷徨って

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中