今月の読本「森と日本人の1500年」(田中淳夫 平凡社新書)「森林学」教養課程から眺める美しい森への道程

追記(2014.10.31):著者の方が、本書の解説記事を公開されていらっしゃいます。

あてにならない下記文章をご覧頂くより、こちらをご覧頂ければと思います(直接のご指摘、誠にありがとうございました)。

上記ページでは、著者の他の著作を含めて、序文および、目次を見る事が出来ます。

 

今回ご紹介する一冊は、いつもご紹介する歴史や生き物の本とはちょっと違うラインの本をご紹介します。

山懐に近い場所に住んでいると、切っても切り離せない森林。その森林をテーマに本邦唯一とも称されるジャーナリスト活動を行っていらっしゃる著者の最新作からのご紹介です。

森と日本人の1500年森と日本人の1500年」(田中淳夫・平凡社新書)です。

本書は表題にありますように、日本の森林に関する歴史を叙述しているように見えますが、実は多少異なります。

実際には、本書では森の話=林業の話と置き換えて理解する必要があります。

こんな風に書くと、日本は世界有数の天然林の宝庫なんじゃないですか?里山の自然や山中に広がる天然林の更新に関する解説書じゃないんですかと、疑問をぶつけられてしまいますが、この認識に対するかい離の補正から本書はスタートしていきます。

日本には天然林なんて殆ど無い事、そして皆さんが写真や映像、そして散策、登山で見かける森林の殆どが実質的に明治以降(もっと言えば戦後でしょうか)に再構築された人工林の変化の途上である事を解説していきます。その過程において、日本の森林は常に人手が加えられ続けられていた事=林業の存在を知ることになります。

従って、森林そのものの役割や自然科学的な成立のお話を期待されている方には、残念ながら語られる内容がかなり異なることを理解する必要があるかと思います。その上で、本書は林業とそれに関わる森林の変化の過程について明治維新を境界線として、それ以前とそれ以後という、大きく二つのセクションに分けて解説していきます。

明治維新以前の林業の話は、史料的な制約もあってごく限られた内容に終始します。したがって、歴史的な林業の形態や所謂「江戸時代は日本中はげ山だった」という話の詳細は本書ではあまり語られません。むしろ、本書は明治維新以降の新政府の林業政策、主にドイツからもたらされた林業論と日本での咀嚼と適用、そして著者のフィールドでもある吉野林業に関わるテーマに多くのページを割いています。

本書が最も力を入れて書いている明治維新以降の林業と林学ですが、この部分については若干理解に苦労を要する個所でもあります。登場する人物や林学のテーマ、特に景観論や人工林の更新に関する手法の記述について、著者にとっては当然の事実なのですが、一般的には無名もしくは、殆ど知られていない内容と思われるにも関わらず、既知の事として叙述を進めている感があります。この部分での置き去り感はかなり強く感じる点で、一般書にもかかわらず、著者の著作を複数読まれている方、ないしは当該知識を習得することを前提にした方へ向けて書かれている「教科書的な」筆致が感じられます。

そのような専門的かつ、やや一方通行的な著述が続く中盤ですが、最後の章に入ると一変して、新聞等でも話題に上る、現代の森に関する様々な取り組みの話に展開してきます。本書を読まれる方が最も興味を持たれる部分かも知れません。

そこには、最新の森にまつわる活動や新たな森の活用法など、森そのもののハード面より利用法、活用法といったソフトウェアに関わる事例が述べられていきます。昨今盛り上がりを見せるテーマではありますが、そこはジャーナリストの矜持として、決してバラ色の未来ではない事を明確に述べていきます。ボランティア活動の限界についても、国産材の普及も掛け声とは裏腹に、絶望的な問題点がある事を示していきます。

その中でも、著者はバラ色ではなくても、現在よりも少しでも良い形になる方策はないのかと自問してきます。その実例として、著者があとがきで述べている自らの土地で手掛けている森作りという実験的実証とともに、「美しい森づくり」という言葉を用いて、理想的な人工林の姿を模索していきます。それは、前述のヨーロッパから伝来した林学の最新形態かもしれません。むしろ、明治以降最近まで継続していた里山の管理手法なのかもしれません。

どちらにしても、その森は自然の力を借りながらも人手によって作り変えられ続けるもの。本書はちょっとロマンチシズムも加わった、これから「美しい森」を作り、育むことを目指す方々への、事前学習としての一冊なのかもしれません。

なお、本書を手に取られる方で、森林の自然科学に対するもう一方のテーマとして、環境問題の一分野としての森林破壊や、野生動物による食害、防災の観点等での日本の森の歴史を語る本と捉えられる方もいらっしゃるかと思いますが、本書ではそれらに類するテーマは実質的に取り扱わない方向で編纂されているようです(ボルネオ等、海外の事例は引用されています)。

<おまけ>

本書は所謂ガイダンス本として捉えるべき内容ですので、個別の章に関してご興味がある方へ、近著で数冊ご紹介します。

  • 日本の森林の歴史や、森林の防災面の効用、課題などにご興味がある方には、「森林飽和」(太田猛彦・NHKブックス)がお勧めです。明治以前の日本の山林は丸裸だったという議論に驚かれる方も多いかと思いますし、防災面における植林の問題点も非常によく判ると思います
  • 江戸時代までの林業の実態について、森林管理という点を含めて広範な内容を解説しているのが「森林の江戸学」(徳川林政史研究所編・東京堂出版)です。吉野林業を主たるテーマとしている著者は、本文中でその実施に疑問を呈していますが、名古屋藩徳川家が管轄していた木曽の林業の姿や販売、山村での生活まで、極めて丁寧に解説されています。ちなみに、何故か道の駅、遠山郷でも本書は売ってたりします
  • 本書でも語られている東大寺の大仏殿の再建。何故遠く九州や山口県まで用材の調達を行う必要があったのか、勧進聖の苦労と限界、時の為政者によってのみ大規模木造建築が築造できることを本書を読んで頂くと判ると思います。東大寺管長であり、昭和の大修理にも携わった当事者が、歴代の東大寺大仏、大仏殿建立にまつわる物語を語る「大佛勧進ものがたり」(平岡定海・吉川弘文館)
  • 最終章の最新の林業、森にまつわる話題に興味がある方には、こちらを読まれるとより一層思い入れが深まるかと思います。実際に森に関わる仕事に就かれている方へのインタビューを、同じように森を活用したビジネス、研究を行われている方が行って一冊に纏めた「森ではたらく!27人の27の仕事」(古川大輔、山崎亮編著・学芸出版社)
  • 残念ながら著者が最も力を入れて書かれている、明治から戦前期にかけての林学や林業の記述に関する補足すべき本を持ち合わせていません。著者の作品からセレクトするのが最も良いかと思いますが「森と近代日本を動かした男 ~山林王・土倉庄三郎の生涯」(洋泉社)はどうやら絶版のようで、何らかよい本が無いものかと…

森と日本人の1500年と参考図書春日渓谷の紅葉20141012_2

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中