今月の読本「明治維新と幕臣」(門松秀樹 中公新書)3つのプロローグと函館戦争通じた旧幕臣の行く末は、やはりキャリアの力が

あまり読書が出来なかった今月。20日を過ぎて各社の新書が出揃う月末になって、買い込んだ本を少しずつ読み始めています。

毎月のように矢継ぎ早に出される新書の数々。驚くようなテーマの本が出てきて喜ばしい反面、テーマの選定から執筆までのサイクルが非常に早くなっていて、内容的に苦しい本が増えてきているのではないかと気がかりになりながら読んだ今回の一冊。

明治維新と幕臣

明治維新と幕臣」(門松秀樹 中公新書)です。

本書は副題に「ノンキャリア」の底力とあるように、江戸時代の幕府を支えた、旗本、御家人たちが明治維新や新政府の中でどのように活躍していったのかを全編を通してがっつりと著述しているように思えます…が、その想いは早くもまえがきで打ち砕かれてしまいます。

本文では、表題にあるように幕臣、特に幕臣の身分体系に配慮した記述で綴られていきますが、一方で全体の半分は明治維新期の幕臣の話ではなく、そのガイダンスというべき体系や政局の説明に費やされています。

著者がはじめにで述べているように、多少なりとも江戸時代の歴史にご興味のある方であれば、1章の江戸幕府の老中制確立までの歴史と、2章の旗本、御家人の職制、身分、収入制度のお話は既にご承知の内容かと思います。

更に、幕末の歴史がお好きな方にとっては、3章の幕末政局の部分も既知の内容で綴られていますので、ある程度ご存じな方にとっては新たな知見が出てくるわけではありません。

ここまでで本書は全ページ数の半数以上を費やしており、バックボーンとなる知見を有しないままに読まれる方に配慮されたことは充分に理解しますが、一方で本来のテーマが描かれるまでのプロローグが如何にも長すぎるきらいがあります。

そして、本書の中核となる旧幕臣の明治維新期における活躍は4章以降の後半戦で述べられていきます。明治維新という権力の空白期を迎えたにもかかわらず、なぜ統治機構が崩壊する事もなく、複雑を極めた外交関係も維持できたのかの理由を、勝海舟の書上げを用いて、財政、外交を司る旧幕臣が上部機関の政権交代による着任、指揮を待つことなく、業務をそのまま横滑りしたことによって維持されたことを指摘していきます。

その際に用いられるキーワードが「朝臣」の称号。幕臣への懐柔策と共に、反乱を抑える手段として用いられた、新政府に対する忠誠を誓わせる代わりに、収入と仕事を約束するこの称号の効用と、それでも静岡に付き従った旧幕臣たちの動きを通して、旧幕臣たちの複雑な心情を表していこうとします。更には、一旦は静岡に引き下がりながら、再び新政府によって呼び出された渋沢栄一の話を通じて、当時の新政府に仕える藩閥出身の行政官と、旧幕府体制下で研鑽を積み上げた旧幕臣たちの行政能力の実力差を語っていきます。それは、外交接受組織としての能力、全国規模での行政経験の有無をまざまざと見せつけるかのようです。

幕臣たちの転身と矜持、この複雑な心情を具体的な史料から説明しようと著者が用意したのが、明治維新期最後の戦闘の舞台となった函館戦争。著者は函館戦争前後の函館奉行所、函館府、そして開拓使へと続く一連の流れの中で翻弄され続ける旧幕臣たちの物語を通じて、幕臣たちの実務官僚としての動きを追っていきます。

後に開拓使の属僚として復帰することになる当時の函館奉行の幕臣たる矜持。上司である函館奉行の説得に応じて、函館奉行所の業務を継承し、新政府の官僚となった属僚たちの活躍。函館戦争を通じた旧幕臣の身の振り方とその後の顛末。

著者は此処でも、キャリアである奉行を始めとした旗本層と、ノンキャリアと定義づけた御家人層のその後の推移を対比していきます。そこにはかっこいいノンキャリア像を期待されるであろう読者の想いを冷静に受け止めつつも、実際には生き抜くために選択していく、下級官僚層の厳しい現実を描いていきます。

本書では開拓使に至る、旧函館奉行所に所属した幕臣たちのその後を追っていきますが、著者は奇妙なことにあるタイミングを以て、旧幕臣の構成人員が激減することを突き止めます。それは黒田清隆が開拓使を辞するタイミングと軌を一にしていますが、原因についてはそれと異なると著者は考えていきます。

そのタイミングは、期しくも新政府の体制が確固となった時期。旧来の幕臣層やその子弟に頼らなくても、新政府が漸く整備の途に就いた新しい学制によって得られた気鋭の官僚層と、新たに全国から採用した属僚たちによって行政運営が可能となったことが、旧幕臣に頼る必要性を低減化させ、併せて旧来の慣行に囚われない、新しい行政システムを構築することに繋がったと指摘します。ここで、黒田清隆が旧幕臣出身者に対して朝臣としての身分を獲得させようと奔走する姿を描くことで、ノンキャリア層が厚遇されていた事を描こうとしていますが、その想いとは裏腹に実際には特典は得られることはなく、逆に現実の厳しさを見せつけさせられます。

ダイナミックに時代が動いた幕末維新期。本書の表題とは異なり、著者の筆致は旧幕臣の能力の高さ、幕府の先見性を高く評価しながらも、その身分体制(世襲制)が足枷となって、キャリア層でもある旗本がその学力と素質を以て新政府に藩閥と並ぶ勢力を確保していく一方、ノンキャリア層が新たな体制下に埋没してく姿を描いていきます。

ノンキャリアの活躍を描きたいと願いながらも、結果としてはキャリア層の学力と地位、それによって勝ち得た知見、能力が体制に囚われない生き抜く底力になる事を見せつけられる本書は、その表題と著者のあとがきまでに書き込まれた想いとは裏腹に、まざまざと現実を直視させられる一冊でもあります。

<おまけ>

本ページより、本書で扱っているテーマ、時代と類似の書籍のご紹介を。

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