今月の読本「あんなに大きかったホッケがなぜこんなに小さくなったのか」(生田與克 角川学芸出版)魚河岸の主が語る、美味しい日本の魚を末永く頂くために

書店にたくさん並んでいるお魚をテーマにした本たち。

魚種全般を紹介したもの、生態を解説した本、漁法や釣技を述べる本、そして食べるための魚を扱った本。

どれも大好きで色々と読み漁るのですが、それぞれのスタンスは少しずつ違います。中でも最近気になるのは食べるための魚を扱った本。ここ数年夏場になると叫ばれるウナギ資源枯渇の話題に、遂にとマスコミで騒がれる太平洋のクロマグロにおけるレッドリスト掲載。それに対して、まるでカウンターを当てるかの如く報道される完全養殖の話題。繰り返される漁業不振の報告と、秋田県や新潟県で行われている個別魚種資源管理への試行の賛否に、福島県沖で実際に起きている試験操業の驚くべき結果。

マスコミで採り上げられる際には、時間的な制約、そしてインパクトが求められるため、どうも話題性だけを追求して、本質が述べられていないきらいがあります。そんな中できっちりとした理解を得ようと思ったら、時間を取ってでも、やはり本を読む事が必要です。そこには、漁業者をないがしろにした規制や政策に対する激しい怨嗟の声が語られる一方、海洋の持つ資源回復力の力強さと、その回復力を遥かに凌駕する圧倒的な漁獲圧力への懸念。経済性を犠牲にした保護政策と、それを助長する漁獲、流通方式に対する強い憤りが述べられている筈です。

これまで、複数の研究者の方が上記のような警鐘を鳴らす書籍を出されていましたが、最近になって、実際には経済的な不利益を被るかもしれないバイヤーの方ですら、一時的な不利益を被ったとしても、長期持続的な漁獲を維持するためには厳密な規制が必要であるとの発言をされるようになってきています。理由は、スーパーに豊富に並んでいるノルウェー産のサバ。本来であれば日本の近海で豊富に漁獲できたはずのものが、輸入した方がより型の揃った、そして量も確保できるようになってしまったからに他なりません。そして、その漁業者たちが日本への輸出によって比較的経済的に恵まれた状態になっている事に、バイヤーとしてやるせなさを感じているからに違いありません。

研究者が警鐘を鳴らし、バイヤーが海外における実例を示す中、今度は購入する側に最も近い、そして不利益を真っ先に受けるに違いない魚河岸の主の方による、正面からこのテーマを取り上げた一冊が登場しました。

あんなに大きかったホッケがなぜこんなに小さくなったのかあんなに大きかったホッケがなぜこんなに小さくなったのか」(生田與克 角川学芸出版)です。

本書は前述ような研究者の方やバイヤーの方が書かれた本とは、もちろんスタイルが大いに異なります。

全編が少々崩した口語体と強調ゴシック体を交えた書式で描かれるお話は、ざっくばらんに魚の事、漁場や魚の流通の事、そして魚河岸でのお話と連ねていきますが、軽妙な筆致の裏には魚河岸に生きるプロとしての矜持が溢れています。著者はマグロ専門の仲卸なのでマグロはもちろんなのですが、それ以外にも多数登場する魚達への愛情と美味しい食べ方(パックで売られているアジのたたきの味気なさへの憂いや、一晩寝かせたアサリの出汁の旨さの話を読みながら、相槌を叩きまくりでした。サンマのはらわたは…お許しください)への拘りは読んでいて気持ちが良いくらいです。豊かな漁場を有する日本の海で獲れた魚。世界で一番おいしいと自慢できる魚たちを、美味しくお客さんに届け、味わってほしいとの、魚河岸としての心意気に溢れています。

その一方で、表題にある「ホッケがなんでこんなに小さくなってしまったのか」。居酒屋の名脇役を敢えて表題に置かれた意図は、著者が最も気にかけている、普段から何気なく魚を食べている人に、実感としてその危機感を感じて欲しいがため。魚河岸に居れば切々と感じる、漁獲が先細りしているにも関わらず、一歩外に出ると依然として全く状況が伝わっていかない事への焦りと、特定の魚種だけがマスコミでエスカレートして持ち上げられる事への危機感の表れとして、下種な魚と呼ばれ、それ故に飲み屋でつまむにはもってこいの大衆魚の代表だった筈が、今や高級魚の仲間入りをしつつあるホッケを表題に持ってくることで、何としてでもその事を伝えたいという、著者の切実な想いが感じられます。

本書の後半で述べられている内容は、前述の研究者の方やバイヤーの方が書かれた本(巻末にお名前が列挙されていますので、ご興味のある方は是非ご一読を)と大きく変わるものではありません。ただ、決定的に違うのは「魚屋さん」が遂にこの点について言及しなければいけない段階まで来てしまったこと。そして、その解決策は決して無い訳ではない事を、より多くの方に判りやすく伝えたいと切に願っている事かと思います。

著者が述べているように、今ならばまだ間に合うはず。世界三大漁場と謂われる豊かな日本の海が持つポテンシャルが、北大西洋のタラのように空っぽになってしまう前に。海を埋め尽くしたと評される、北海道のニシンのように二度と戻って来なくなってしまう前に。そして、これからも日本の海で獲れた魚を美味しく頂くために。

<追加情報2015.2.6>

下記にもご紹介しておりますバイヤーの方による、本書の後半部分「ホッケがなぜ小さくなってしまったのか」について、バイヤーの目線で3つのポイントを紹介する記事がweb上に掲載されています。出来れば、本書を読まれた後でご覧頂いた方が良いのですが、まずはwebでご覧頂くのも良いかもしれません(連載シリーズなので、ご興味のある方はバックナンバーの記事も)。

 

<おまけ>

本ページでご紹介している、他の魚や海産物関係の書籍について。

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