今月の読本「三浦一族の中世」(高橋秀樹 吉川弘文館)通史としての中世史から三浦一族への交点を結んで

今月の読本「三浦一族の中世」(高橋秀樹 吉川弘文館)通史としての中世史から三浦一族への交点を結んで

吉川弘文館の歴史文化ライブラリー。

通巻400冊の記念となる一冊は、本シリーズでも多くの作品が登場する中世東国史において、大きな勢力を誇った相模の名族、三浦一族の登場です。

三浦一族の中世三浦一族の中世」(高橋秀樹 吉川弘文館)です。

このように書くと、鎌倉幕府と三浦一族の歴史か、あるいは相模の郷土史における三浦一族の位置づけを解説する本と思われますが、著者は明確にこの点を否定します。

著者の狙いは、郷土史としての三浦氏ではなく、地域史、更には中世史における三浦氏の位置づけを描写することを念頭に置いていますが、その想いと実際にはやや食い違いが認められるようです。本書は、表題の通り院政以前から戦国期(実際には建武新政期までで、その後は補足として)に至る三浦一族の歴史を述べていきますが、その内容とほぼ同じか上回る分量で別のテーマを語っていきます。

それは院政以前から建武新政に至るまでの、家職制に基づいた中世史を通史として描く事。

そこには、通史なくして個別の歴史著述、郷土史は無いとの著者の想いがあるようです。その結果、本書は三浦一族の歴史を語る本でありながら、著者の持論を交えた教科書としての中世史を軸にして、三浦一族の歴史が交互に織り込まれる、互いに並立する二つの書物を一つに織り込んでしまったような一冊になっています。その形態は、中世史の流れをまず描き、そのシーンごとに三浦一族の動きを観ていくというスタイルを採っており、その都度叙述が断絶するため、三浦一族の動き自体を追いかけたいという読み方には、少々骨が折れる筆致となっています。

その一方、中世史の叙述としては、著者の考える家職制に基づいた叙述を、その狙い通り淡々と述べていきますので、ある意味読みやすくもあり、疑念を持つ他の論点に関しては、歯切れの良い筆致で制していきます。特に家職制に基づく家格の議論と、それだけには留まらない、時の権力者である後白河との会見と、家政機関としての問注所の成立こそが鎌倉幕府の組織的成立時期であると見做す著者の指摘は傾聴に値すると思います。また、三浦一族、三浦介の権能に対しても、国衙との関係から検断権は有していなかったと、在庁や在地の権限を比較的限定する立場の見解を見せています。更に、神護寺三像や伝北条時宗像についての見解を述べるに当たって、教科書記述を参考に持ち出す点など、著者の経歴(文科省初等中等教育局教科書調査官)が垣間見えます。

淡々と語られる歴史叙述。その中でもほんの少しだけ華やかな描かれ方をされる個所が、東大寺の再建供養。三浦義澄の単騎随行にも見える、三浦一族にとっても最大の盛儀であったと思われますが、朝廷と寺社勢力、武力装置、財政力としての武家という位置付けが最も顕著に示された点でも、著者の想いに最も相応しいシーンなのかもしれません。三浦一族の活動についても、類書に見られるような鎌倉幕府、執権政治内における活動を描く事より、京における朝廷、権門との交わりを重視して叙述している 点が特徴的であり、その結果、本書では承久の乱前後の京における三浦一族をはじめ、武家の活動が豊富に描かれることになります。

通史としての中世史を描く事を掲げた本書。特に京における動向を中心に、武家との関わり合いを描く事に重点に置いたため、宝治合戦までで全体の3/4(150ページ、本文は全203ページ)を費やしていきます。その結果、著者が弁明しているように、宝治合戦以降の後期三浦一族が生きた時代、通史としては鎌倉後半から建武新政にかけてはかなりの駆け足で物語が進められていきます。一方で、通史の叙述は徐々に少なくなり、まるで歴史の流れが朝廷から武家に移っていった姿そのままに、三浦一族の物語のウェートが膨らんでいきます。その結果、三浦一族の地方への広がりや、三浦一族の終焉など、極めて駆け足ではありますが、巻末にかけて、彼らの歴史がある程度固めて語られていきます。

通史としての叙述から離れ始めた巻末。本書の白眉は正に最後のエピローグ、燃え上がる炎をバックに表紙に置かれた三浦義明と三浦氏、そして三浦介の名称の伝説が僅か10ページ足らずですが描かれていきます。そこで描かれる、後世の人々が国家的な歴史上の働きより、英雄譚的な個人の活躍に想いを馳せている例を、社会的変化と述べなが図らずも著者自身が描いている点が何とも皮肉に思えてくるのです。

通史として中世史を描く事と、歴史上の一族を物語る事。あとがきでも著者が述べているように、どちらも両立させるべく描かれた本書を読んでいると、その想いを一書に収める事は、なかなかに難しいのだなと、感慨にふけながら。

<おまけ>

本書に関連する書籍のうち、本ページでご紹介している本達を。

三浦一族の中世と歴史文化ライブラリーたち1三浦一族の中世と歴史文化ライブラリーたち2

 

シーズンの最後を待つ桜(諏訪郡富士見町田端の鼎談桜)2015.4.25

4月ももう終わり。世間ではゴールでウィークの話題が上ってきていますが、標高の高いここ、八ヶ岳南麓では漸く春の心地を満喫している状態で、ちょっとしたギャップを感じつつある昨今。

散り始めた田端の枝垂桜久しぶりに晴れた空の下、既に散り始めた諏訪郡富士見町信濃境、田端の枝垂桜(2015.4.23)。

盛りを迎えた深叢寺の夜桜ピークを迎えた、標高1100mに位置する、諏訪郡原村の桜の名所、深叢寺。

夜桜が楽しめるのも今夜が最後になりそうです(2015.4.26)。

開花を待つ夕暮れの鼎談桜夕暮れ。食材を買いに出掛けたついでに、この界隈では最も開花の遅い、鼎談桜を観に行ってみました。

既に、水田には水が張られて準備万端といったところなのですが…残念ながら開花にはあと一歩及ばないようです。

蕾膨らむ鼎談桜夕暮れが迫り、シャッター速度が稼げなかったためぶれてしまいましたが、今や遅しと開花を待つ、鼎談桜の蕾たち。

もうあと僅かで開花を迎えそう。

春と初夏が一緒にやって来る、山間の山村ならではの風景が楽しめるのもあと僅かです。

 

2015年シーズンの小淵沢駅発小海線臨時列車時刻表

2015年シーズンの小淵沢駅発小海線臨時列車時刻表

(2016.4.9):2016年シーズンの小淵沢駅発小海線臨時列車時刻表はこちらに掲載しています。

現時点でも、2014年版のページにアクセスされている方も多いようですので、改めて2015年シーズン版の時刻表をご紹介します。

小淵沢駅に発着する詳しいバスの時刻表はこちらでご紹介しています。

New!(2015.11.23):今シーズンの小海線臨時列車は運行終了かと思いきや、意外なことに12/20(日)に「快速リゾートビュー星空」(全席指定)の運行が決定いたしました(JR東日本長野支社プレスリリースより)。但し、運行区間は小諸-佐久平-中込-小海-野辺山間ですので、小淵沢駅からは利用する事は出来ません。折り返しの野辺山駅ではイベントも用意されているようですが、運行は夕方から夜間となりますので、佐久、上田、軽井沢方面からお越しの方限定でどうぞ。

New!(2015.10.17):トップの画像を2015年秋バージョン(10~11月)の小海線臨時列車時刻表に更新しました、今シーズンの最終更新です。

New!(2015.8.26):2015年秋(10~12月)の臨時列車はこちらのJR東日本長野支社プレスリリース(PDFファイル)を参照願います。

  • 松本-塩尻-岡谷-茅野-小淵沢-清里-野辺山-小海-中込間往復で運行される「快速リゾートビュー八ヶ岳」(全席指定)の運行日
    • 10/17,18(小淵沢発 10:30)
  • 小海線全線開通80周年を記念して、小淵沢-小諸間往復で運行される「小海線全線開通80周年号」(全席指定、ハイブリッド車2系列で連結運転を実施)の運行日
    • 11/29(小淵沢発13:30)
  •  小淵沢-甲斐小泉-甲斐大泉-清里-野辺山-八千穂-小海-中込-佐久平-小諸間往復で運行される「快速さわやか八ヶ岳高原号」(ハイブリット車)の運行日
    • 10/10,11/7,14(小淵沢発14:30)

New!(2015.7.12):トップの画像を2015年夏バージョン(7~9月)の小海線臨時列車時刻表に更新しました。

New!(2015.6.27):2015年夏(7~9月)の臨時列車はこちらのJR東日本長野支社プレスリリース(PDFファイル)を参照願います。

  • 松本-塩尻-岡谷-茅野-小淵沢-清里-野辺山-小海-中込間で運行される「快速リゾートビュー八ヶ岳」(全席指定)の運行日
    • 7/18,19,20(小淵沢発 10:30)
  • 小淵沢-清里-野辺山-小海-中込間で運行される「快速風っこ八ヶ岳高原」(トロッコ型列車、全席指定)の運行日
    • 9/12,13(小淵沢発 13:52)
  • 小淵沢-清里-野辺山-小海-小諸間で運行される「快速さわやか八ヶ岳高原号」(ハイブリット車)の運行日
    • 7/4,7/11,9/26(小淵沢発 14:30、今年は運行日が少ないようです)

その他の臨時列車は、こちらのJR東日本長野支社プレスリリース(PDFファイル)を参照願います。

小海線臨時列車時刻表2015年秋冬版

こちらが秋バージョン最終版です。11/14運行予定の「快速さわやか八ヶ岳号(ハイブリッド列車)」と、11/29運行予定の「小海線全線開通80周年号(ハイブリッド列車2タイプ連結)」で今シーズンの臨時列車運行は終了です。

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こちらが秋バージョン。10月以降の運行予定を追記します。

  • 八ヶ岳高原列車1号(野辺山行) : 10/3-4,10/10-12,10/17-18,10/24-25,10/31,11/1,11/3
  • 快速リゾートビュー八ヶ岳(中込行・全席指定) : 10/17-18
  • 八ヶ岳高原列車3号(野辺山行) : 10/3-4,10/10-12,10/17-18,10/24-25,10/31,11/1,11/3
  • 八ヶ岳高原列車5号(野辺山行) : 10/3-4,10/10-12,10/17-18,10/24-25,10/31,11/1,11/3
  • 八ヶ岳高原列車7号(野辺山行) : 10/3-4,10/11-12,10/17-18,10/24-25,10/31,11/1,11/3
  • 快速さわやか八ヶ岳高原号(小諸行) : 10/10,11/7,11/14
  • 臨時普通(小海行) : 10/3-4,10/11-12,10/17-18,10/24-25,10/31,11/1,11/3

小淵沢駅の小海線臨時列車時刻表2015年夏版こちらが2015年の夏バージョンです。

小淵沢駅臨時列車時刻表2015年春版こちらは、2015年の春バージョンです。

基本的に4月11日から6月末の週末、祝日に運行されます(例年ですと、このまま11月初旬までの運行です)。

午前中の便は全ての週末に運行されますが、午後の便は、一部日曜日だけの運行になります。

臨時快速さわやか八ヶ岳高原号(ハイブリッド列車「こうみ」1両での運転)は特定の土曜日だけの運転となります。

停車駅は小淵沢-甲斐小泉-甲斐大泉-清里-野辺山-小海-八千穂-中込-佐久平-小諸の各駅です。

  • 1号 9:16野辺山行き(8月は毎日運転)
  • 3号 10:56野辺山行き(8月は毎日運転)
  • 5号 12:29野辺山行き(8月は毎日運転)
  • 7号 14:03野辺山行き(8月は毎日運転)
  • 臨時快速 14:30 小諸行き(この後の運転は9/26のみです)
  • 臨時普通 17:11 小海行き(8月は毎日運転)

補足:ハイブリット列車「こうみ」運行スケジュールの照会でこちらのページにお越しになる方が多いようですが、現在公式サイトには時刻表のリンクが掲示されていません。

通常運転されているスケジュールは以下の通りです(特殊な車両のため、点検等で急に運休になる場合があります。あくまでも参考情報です)。

125D : 中込6:55 – 小諸7:24

124D : 小諸7:51 – 中込:8:20

131D : 中込8:54 – 小諸9:26

228D : 小諸10:08 – 小淵沢12:27

229D : 小淵沢13:14 – 小諸15:32

136D : 小諸15:42 – 小海16:50

141D : 小海17:00 – 小諸18:00

142D : 小諸18:29 – 中込19:00

ハイブリット列車「こうみ」小淵沢駅に現れるのは原則昼過ぎの1本だけと理解してください。

[新宿方面からの特急のお乗換え案内]

<新宿7:00発-小淵沢8:54着スーパーあずさ1号からお乗換え>

 ・1号 9:16発(野辺山行き)

<新宿7:30発-小淵沢9:36着あずさ3号からお乗換え>

<新宿8:00発-小淵沢9:53着スーパーあずさ5号からお乗換え>

 ・普通 9:57発(小諸行き)

 →10:05小淵沢駅前発車の八ヶ岳高原リゾートバス(小淵沢-甲斐小泉方面循環:増発便)も接続します

 →10:15小淵沢駅前発車の鉢巻周遊リゾートバス(小淵沢-富士見高原-原村・やつがたけ自由農園行き)も接続します

<新宿8:30発-小淵沢10:44着あずさ7号からお乗換え>

<新宿8:02発-小淵沢10:22着あずさ53号からお乗換え(臨時列車)>

 ・3号 10:56発(野辺山行き)

 →10:50小淵沢駅前発車の八ヶ岳高原リゾートバス(小淵沢-甲斐小泉方面循環)も接続します

<新宿9:00発-小淵沢11:08着あずさ9号からお乗換え>

 ・普通 11:19発(小諸行き)

<新宿9:02発-小淵沢11:59着ホリデー快速ビューやまなし号からお乗換え(臨時列車)>

<新宿10:09発-小淵沢12:12着あずさ55号からお乗換え(臨時列車)>

 ・5号 12:29発(野辺山行き)

 →12:30小淵沢駅前発車の鉢巻周遊リゾートバス(小淵沢-富士見高原-原村・やつがたけ自由農園行き)も接続します

<新宿11:00発-小淵沢12:59着あずさ13号からお乗換え>

 ・ハイブリット列車「こうみ」 13:14発(小諸行き)小淵沢発の「こうみ」は一日1本だけです

<新宿12:00発-小淵沢13:53着スーパーあずさ15号からお乗換え>

 ・7号 14:03発(野辺山行き)

 →14:30小淵沢駅前発車の八ヶ岳高原リゾートバス(小淵沢-甲斐小泉方面循環)も接続します

 →14:15小淵沢駅前発車の八ヶ岳高原リゾートバス(小淵沢-甲斐小泉方面循環:増発便)も接続します

<特急の接続はありません>

 ・臨時快速 14:30発(小諸行き)

<新宿13:00発-小淵沢15:00着あずさ17号からお乗換え>

 ・普通 15:05発(小諸行き)

 →15:30小淵沢駅前発車の鉢巻周遊リゾートバス(小淵沢-富士見高原-原村・やつがたけ自由農園行き)も接続します

<新宿15:00発-小淵沢17:02着あずさ21号からお乗換え>

 ・臨時 17:11発(小海行き)

 →17:25小淵沢駅前発車の八ヶ岳高原リゾートバス(小淵沢-甲斐小泉方面循環:増発便)も接続します

詳しくはJRのホームページ及び小淵沢駅の駅員さんにお聞き下さい。

今月の読本「日本酒の近現代史」(鈴木芳行 吉川弘文館)行政史から俯瞰する、せめぎ合う徴税と酒造の物語

今月の読本「日本酒の近現代史」(鈴木芳行 吉川弘文館)行政史から俯瞰する、せめぎ合う徴税と酒造の物語

通巻400冊を迎えた、吉川弘文館さんの歴史文化ライブラリー

記念の400冊目を読むのはこれからですが、その前に401冊目となる、本シリーズの主題でもある、日本の歴史と文化の熟成を示す代表的なテーマを掲げながら、一般書としては珍しい切り口の興味深い1冊をご紹介します。

日本酒の近現代史日本酒の近現代史」(鈴木芳行 吉川弘文館)です。

最近復権の兆しの見える日本酒。本屋さんを覗くと、多くの関連書籍が書棚を賑わせています。

本書もそれらの系譜に連なる一冊かと思えますが、さにあらず。

この本をお手に取られる皆様にとってご興味のあるであろう、名醸地、吟醸酒や純米酒、杜氏のお話はもちろん出て来ますが、全体に占める割合は極僅かです。

そして、造りに興味がある方にとってはちょっと意外かもしれませんが、本書には酒米や酵母のお話は全く出て来ません(山田錦や七号酵母という単語が出てこない日本酒の本というのも、むしろ新鮮)。

では、本書はどのようなお話が語られるのでしょうか。

著者の鈴木芳行氏は、同じ吉川弘文館の歴史文化ライブラリーに「首都防空網と<空都>多摩」という、これまた異色のテーマを据えた、郷土史の枠を超える近代史の書を上梓されています。そして、本書に掲載されている略歴には述べられていませんが、あとがきにあるように、税務大学校で租税史の研究に携われていた方です。

本書はそんな著者の研究成果を一般向けに判りやすく解説しつつ、酒税と日本酒の関わり合いから日本酒の歴史を叙述するという、極めて珍しい一冊といえるかもしれません。

ただし、著者の経歴と前述の内容のせいでしょうか、本書を読んでいると、まるで行政機関が発行している広報誌やレポート、紀要を読んでいる気分にさせられるかもしれません。特に、結論への落とし込みがやや大振りな点や、行政(醸造試験所及び税務署)の成果をややもすると一方的に称揚しているように感じさせる点には、読んでいて多少の違和感を持たれるかもしれません(校了では指摘があったかと思いますが、ある名詞に通常用いない呼称を一貫して使用する点も、気になさる方は多いのではないでしょうか)。

そんな少々気になる点もありながらも、本書の捉えようとしているテーマは非常に興味深い点があります。

本書は、その記述のスタートである江戸時代初期の時点から、醸造と徴税の物語が既に語られ始めます。

洋の東西を問わず、アルコールは徴税の大きな拠り所。より高品質、高効率なアルコール醸造こそが効率的な徴税に繋がる事を、それこそ徴税する立場の視点で述べられていきます。原料である米の出来高、酒の醸造石高や取引量の増減に伴って変動する税収と、主食でもある米(この部分が他のアルコール類と決定的に異なる)の供給量のバランスに頭を悩ませる徴税サイドと、その隙を突きながら酒造を拡大させる酒造家たち。そのつばぜり合いの先に、遂には十水(米十石に水一石以上を吸わせる、米百石で百石以上の酒を醸造する)という高い吸水効率を達成し、更には宮水と水車精米を用いた高精米率による、高付加価値商品としての灘酒の完成があると読み解いていきます。そこには、徴税者達の圧力に抗しながら酒質を上げる事で利益を確保していこうとする、酒造家、杜氏たちの執念を感じさせます。

高い税率に苦しめられながらも税収の下支えに寄与してきた歴代の酒造家たち。その執念の先に、明治以降の酒税だけに認められた、冬季の醸造に有利となる特異な徴税システムが構築されたことを、専門の租税史の史料を駆使して解説していきます。高い税率と特異な税制がもたらした結果は、表紙の帯にあるように、明治中盤の一時期には国税の過半を担うという、とんでもない重税に耐えながらも日本酒の醸造が発展していく事になります(それでも呑みまくった民衆もしかりですが)。

租税の歴史から見た近代日本酒醸造の歴史。その視点は、吟醸酒の成立や所謂下り酒の衰退にも影響を与えたと見做していきます。

より高品位の酒を安定的に送り出して、高い付加価値を得たい。日本酒に付いて廻った「腐造」の問題。そして、主食でもある米の使用量を極力抑えて、なおかつ酒質を安定させるための挑戦。著者によれば、これらすべてが高い税率、そしてその税収に依存する徴税サイドの切実な問題意識から端を発した結果論としての、酒造家、そして徴税者たちの取り組みの成果であったと述べていきます。

軟水醸造法と吟醸酒に欠かせない縦型精米機は奇しくも、同じ土地から生まれることになり(加茂鶴)、灘の樽酒の東京への一括買い上げに対抗すべく、瓶詰めと個別取引で東京市場を開拓(月桂冠)、杜氏への化学知識、技術指導による、税収減の元凶でもある「腐造」の撲滅と、杜氏の勢力図の転換(越後杜氏)。そして、現在では主流となった速醸や山廃が東日本で先に普及が進んだ結果が、現在の日本酒出荷量において、灘、京、広島を除けば、東日本中心となった点に繋げて考えると、なかなか興味深い所でもありますし、このことを知れば、灘の雄である菊正宗が樽酒と生酛造りに拘る点も判るような気がします(注記:本書では人物名は用いますが、文中で特定の蔵元名称は原則用いられません)。更には、典型的な季節型労働集約産業であった醸造自体も、これらの改良や機械化、最終的には高度成長期の月桂冠に始まる所謂「四季蔵」の成立による、ナショナルブランドとしての産業化が達成されていった事を好意的な視点で示していきます。

日本酒が隆盛を誇り、製造法が著しい飛躍を遂げた戦前。その繁栄も、戦争の足音と共に歪んだ進化を遂げる事になります。本書では好意的に捉えていますが、一部には否定的な見解もある三倍増醸酒やアルコール添加酒の開発や、日本酒離れの元凶となったという説もある等級制への移行。これらは既存の大手酒造家たちに有利な政策でもあったため、戦後も長きに渡り継続される結果となりますが、本書では、その逆境を跳ね返すべく酒造家たちが挑んだ、新潟を始めとする吟醸酒造りと税法のせめぎ合いの話も述べられていきます。

そして、前著「首都防空網と<空都>多摩」とも関わってくる、戦中、戦後期の統制と税収の物語は本書の白眉とっていいかもしれません。中には、戦中の配給における酒類の動向や徴税手法の変化、酒造設備の機械化度合いを企業整理令に基づく、金属回収の資産評価基準から読み解くなどという、前著に繋がる、税務経験者の面目躍如といった着眼点も出て来ます。この戦中の統制に端を発した酒税の制度設計の影響は、戦後の混乱期に生じた更なる統制をも加えて、戦後も長く尾を引いていきます。本書の後半では、最終的な解除(生産調整が完全に解除されたのは1973年、級別制度が廃止されたのは実に1992年)に至るまでの経緯と実情が徴税側の立場から述べられていきますが、その目的は税収の確保と、やはり主食である米を原材料とする日本酒ならではの、主食の確保とのせめぎ合い。

同じような目的で制定された食糧管理法が、形骸化しながらも1994年まで継続したように、税収と主食の確保という行政運営上の2大目的の板挟みに合う事を宿命づけられた日本酒の醸造は、その間のビールの大幅な伸び(こちらも不公平税制だとの声が長らく続いています)による税収の逆転と、阪神大震災以降、留まる事を知らない税収、醸造量の落ち込みに見舞われている事はご承知の通りかと思います。

徴税と酒造家のせめぎ合いによる日本酒の発展と衰微を語る本文からの流れで読んでいくと、少し違和感すら与えるエピローグの著述。

これも、なかなか手にすることは少ない、行政サイドから見た酒造史という、特異な一冊の文末らしいのかな、と考えながら、今夜も酒造家の皆様のたゆまぬ努力のおかげで日本酒で杯を交わす事が出来る事を素直に喜びつつ、一献。

<おまけ>

本書と一緒に読んでいた本達と、本ページに掲載している関連する書籍のご紹介。

日本酒の近現代史と類著たち

晴れた午後に八ヶ岳西麓で春の景色を(2015.4.18)

突然雪が舞ったり、雨の日が続く落ち着かない空模様の今年の春。

そんな中でも、季節の足取りはしっかりと、八ヶ岳西麓にも向かってきています。

残雪の八ヶ岳遠望1畔の緑も眩しくなってきた圃場沿いに八ヶ岳を望んで。

もう少しすると、畑に鍬を入れるトラクターの音が響き渡るようになります。

残雪の八ヶ岳遠望2八ヶ岳に残る雪渓もあと僅かに。着実に季節は春から初夏へと移りつつあります。

開花を始めた桜と南アルプスの山並み遠く、南アルプスの山並みを望む運動場に植えられた桜の木々も大分色を濃くしてきました。

八ヶ岳リゾートアウトレットから長野側に抜ける場所にあるこの桜並木。お買い物の際に、お気づきの方もいらっしゃるでしょうか。

まだ早い鼎談桜この界隈では最もお目覚めが遅い、寝坊助さんの鼎談桜。

上着を脱いで、腕まくりしたくなるような気温18度の土曜日の午後。それでもしっかりと蕾を閉じたままのようです。

枝を揺らす強い風が、釜無川の谷筋から吹き上げてきます。

葛窪の枝垂桜と案内板開花を迎えた、葛窪の枝垂桜。

今年から、町の方で解説板(正確には注意喚起です)が設けられるようになりました。

長野方面から、八ヶ岳リゾートアウトレットへのアプローチルートでもある県道沿いにあるため、訪れる方が少しずつ多くなっているように見受けられる葛窪の枝垂桜。現地には駐車場所の指示が出ていますので、訪問される方はご確認願います。

葛窪地籍の枝垂桜と八ヶ岳標高1000mに位置する、葛窪の集落の中にひっそりと佇む、枝垂桜と八ヶ岳。

上空には、強い風に引きつけられるように八ヶ岳に向けて雲が尾を引いています。

葛窪地籍の枝垂桜と甲斐駒春めいた霞んだ青空の向こうに望む甲斐駒と枝垂桜(諏訪郡富士見町葛窪)。

午後の日差しと葛窪地籍の枝垂桜標高が高い場所なので、ソメイヨシノより開花が早い枝垂桜といっても、まだ開き始め。

午後の木漏れ日が、咲き始めた桜の花を通して差し込んできます。

枝垂桜と甲斐駒遠くに望む甲斐駒は雪を多く残しています。

撮影している最中に滑落事故があったとの報を聞き、少し心が痛む景色に。

枝垂桜の花びらソメイヨシノよりかなり濃い、薄桃色の枝垂桜。ここの桜は、すぐお隣の信濃境、高森観音堂の枝垂桜から枝分けされて植えられたとも云われています。信濃境に咲く枝垂桜たちに共通の、しっとりとして、濃い色合いが印象的です。

強い西風が吹く中、一生懸命に花を咲かせています。

午後の田端の枝垂桜6午後の日差しの中、坪庭のような小さな谷戸に畑と水田が伸びる、諏訪郡富士見町田端。

集落の真ん中、小山のように盛り上がった墓地に桜の木が花を咲かせています。

午後の田端の枝垂桜7甲斐駒をバックに花を咲かせる、田端の枝垂桜。

こんもりと咲いた花の色が3色になっているのが判るでしょうか。

午後の田端の枝垂桜1西側から眺めて頂くと判りますが、2本の枝垂桜とコブシ、そして、右側手前にもう一本の桜の木が一つの大きな木のように見えるために3色に色が分かれています。今年もコブシの開花が少し早かったので、既に花は落ちて緑の葉が出ています。

午後の田端の枝垂桜3渦巻く薄雲が広がる青空の下、開花を迎えた田端の枝垂桜。

遠くに雪を残す八ヶ岳が望めます。本日は、町主催のツアーが開催されていた関係で、多くの方がお越しになっていました。

午後の田端の枝垂桜2東側から望む田端の枝垂桜。

左右2本の木に分かれているのが判るでしょうか。

午後の田端の枝垂桜5墓地の入口側から撮影した田端の枝垂桜と甲斐駒。

薄紅色の枝垂桜の花が午後の日差しに照らされていきます。

午後の田端の枝垂桜4時折突風が吹く、春めいた暖かい午後。

風に揺れる枝垂れ桜と南アルプスの山並みを遠望して。

深叢寺の夜桜3夜を迎えて、少し冷え込んできた中を、諏訪郡原村へ。

原村の桜の名所、深叢寺では夜桜ライトアップが今年も行われています。

ぼんぼりに誘われて、境内に入っていきます。

深叢寺の夜桜2山門の上に鐘楼を載せた珍しい形態の深叢寺。

鐘楼の前に立派な枝ぶりの桜が威容を誇ります。

深叢寺の夜桜1標高1100mと、八ヶ岳西麓で最も標高の高い場所に位置する集落でもある、原村中新田に位置する深叢寺。

撮影時も気温4℃(2015.4.17、午後9時前)。流石に開花したとはいえ、まだ花が開き始めたばかり。

これからが見頃となりますが、夜桜見物は、どうか暖かい服装でお越しください。

高森観音堂の夜桜桜祭りが行われている、諏訪郡富士見町信濃境、高森観音堂。

日中は多くの観光客の皆様が、集落の中に点在する桜を楽しまれていたようですが、今年もひっそりと夜桜ライトアップが開催されていました(周囲の個人宅でも行われています)。

まったく無告知のため、訪れる方は皆無に近い(昼間のさくら祭りにお越しの際に、地元の方に聞かれた方限定ですね)このライトアップ。静かな観音堂の境内でじっくりと夜桜の美しさを堪能する事が出来ます。

暗闇から浮かび上がる、数100年の時を経て、なおも花を咲かせる枝垂桜の威厳を感じながら。

夜間撮影用機材を持ち合わせていないので、Lumia1020の手振れ補正と合成補完機能(41Mpixelから減算処理を行って5Mpixelの補正画像を生成する)に頼った一枚。雰囲気だけでも伝わればと。

甲斐駒と桜の花春爛漫の八ヶ岳西麓。

天気の安定しないこの春を象徴するように、今日は再び雨模様。

美しい桜の花たちを愛でるのも、ほんの少しの間かもしれません。

 

累計200,000アクセス、ありがとうございます(ご覧頂きましたすべての皆様に感謝を)

2012年のクリスマスからスタートした本サイト。昨年6月に100,000アクセスに到達しましたが、それから1年も経たずに200,000アクセスを迎える事が出来ました。

こんな辺鄙なサイトにわざわざご訪問頂きました皆様に改めて感謝を申し上げるとともに、皆様のご興味に与りましたことを有難く思っております。

200,000アクセスを記念して、wordpressの解析データから、この1年間のアクセスランキングをちょっとご紹介します。

200000アクセスベスト30で表示していますが、30番目のAboutで300アクセス強といった数字です。

既に旧モデルとなってしまいましたが、やはりSX4の紹介記事へのアクセスが依然としてもっとも多いようです。特に、今年の2月にデビューした後継車種となるSX4 S-Crossの登場直後はアクセスが集中、過去最大のアクセス数を記録しています(月間アクセス数でも、今年の2月が最高記録です)。SX4関連と、トヨトミレインボー関連で過半数以上のアクセス数を占めている点は昨年と同じです。

そして、今年のアクセスを特徴づけるのはBlackBerry Passportの紹介記事と、やはり「ヒゲのウヰスキー誕生す」の書評でしょうか。

Passportの紹介記事については、検索サイトでもヒットしないのに、皆さんどのようにこちらのサイトに辿り着いているのやら…ちょっと不思議なアクセス傾向を見せていますが、とにもかくにも日本語の情報ソースが少ない中で、何らかのお役に立てているようであれば(不幸な沼にはまり込んでしまった場合にはごめんなさいです)いちガジェットファンとして嬉しく思います。

そして、書評の方は、こんな辺鄙なサイトまで検索エンジン経由で探し出されてアクセスが掛かる事自体、やはりTVの影響は大きいなあと、実感するところです(だいたい1000アクセス位です)。

逆に、昨年来ちょっと困ったぞ、と思っているのは小淵沢駅の時刻表案内。昨年の夏の情報にも拘わらず、現在でも定期的なアクセスが続いているという状態で、結局現在に至るまで(表題そのままで2015年の春ダイヤを掲載しています)マメにデータを更新する羽目になってしまった点は、お願いですから公式様(北杜市観光協会)、新駅舎も出来る事ですし、もう少し頑張って欲しいと、切に願う次第です(休日の度に、無人の観光案内所の外に群がるように集まっている観光客の皆様を見る度に、忍びないのです)。

書評と並んでこつこつ積み重ねている写真の方も、皆様に色々なタイミングでご覧頂けているようです。特に信濃境の桜のご紹介については、このシーズンになると多くアクセスして頂くのですが、下手な写真故に、少々恥ずかしいところもあります。こちらは、公式様(富士見町観光協会並びに、おらほー富士見さん)が積極的に情報発信されていますので、こちらからもなるべくリンクを張るようにしていきたいと考えています。

ちょっとまとまりのない(twitterも同じなのですが、ジャンル整理エンジン苛め的)本ページ。これからもマイペースで、ちょっとずつ更新を繰り返していきたいと考えております。

ほんの僅かでも、皆様の情報収集に、そして暇つぶしのお役に立てます事を。

2015.4.16

枝垂桜と甲斐駒

 

八ヶ岳西麓の春もいよいよスタート(開花を迎えた信濃境、田端の枝垂桜)2015.4.16

4月に入っての急激な冷え込みや降雪で開花が遅れていた、標高1000m近辺の八ヶ岳西麓の桜達。

今週に入って、いよいよ開花を迎えたようです。

朝から晴れ間が覗いた間に、ちょっと寄り道して諏訪郡富士見町、信濃境から一番山梨県境に近い、田端の枝垂桜を眺めてきました。

開花を迎えた田端の枝垂桜1雨上がりの空の下、濃い桃色の花びらを開かせ始めた、田端の枝垂桜。

遠くに、八ヶ岳を望む事が出来ます。

開花を迎えた田端の枝垂桜2色の濃さが印象的な信濃境の枝垂桜たち。田端の枝垂桜も例外ではありません。

日当たりの少々悪い西側の花はまた開き始め。晴れた空の向こうに、雪をたっぷり残す甲斐駒が望めます。

開花を迎えた田端の枝垂桜3甲斐駒と、開き始めた枝垂桜の花を重ねて。

開花を迎えた田端の枝垂桜4開花したといっても、まだほんの僅か。

天候が安定すれば、これから2週間ほどは、他ではあまり見られない、色の濃い緋寒桜ならではの美しい花が楽しめるはずです。

そして、例年恒例の信濃境、高森観音堂で開催される「高森観音堂de桜まつり」。今年は、4/18(土)、4/19(日)の二日間に開催されるこ とが決定しました!振る舞いや、出店、信濃境駅発着で町が主宰するウォーキングツアーも実施されます。詳しくは富士見町公式ホームページへ。