今月の読本「三浦一族の中世」(高橋秀樹 吉川弘文館)通史としての中世史から三浦一族への交点を結んで

吉川弘文館の歴史文化ライブラリー。

通巻400冊の記念となる一冊は、本シリーズでも多くの作品が登場する中世東国史において、大きな勢力を誇った相模の名族、三浦一族の登場です。

三浦一族の中世三浦一族の中世」(高橋秀樹 吉川弘文館)です。

このように書くと、鎌倉幕府と三浦一族の歴史か、あるいは相模の郷土史における三浦一族の位置づけを解説する本と思われますが、著者は明確にこの点を否定します。

著者の狙いは、郷土史としての三浦氏ではなく、地域史、更には中世史における三浦氏の位置づけを描写することを念頭に置いていますが、その想いと実際にはやや食い違いが認められるようです。本書は、表題の通り院政以前から戦国期(実際には建武新政期までで、その後は補足として)に至る三浦一族の歴史を述べていきますが、その内容とほぼ同じか上回る分量で別のテーマを語っていきます。

それは院政以前から建武新政に至るまでの、家職制に基づいた中世史を通史として描く事。

そこには、通史なくして個別の歴史著述、郷土史は無いとの著者の想いがあるようです。その結果、本書は三浦一族の歴史を語る本でありながら、著者の持論を交えた教科書としての中世史を軸にして、三浦一族の歴史が交互に織り込まれる、互いに並立する二つの書物を一つに織り込んでしまったような一冊になっています。その形態は、中世史の流れをまず描き、そのシーンごとに三浦一族の動きを観ていくというスタイルを採っており、その都度叙述が断絶するため、三浦一族の動き自体を追いかけたいという読み方には、少々骨が折れる筆致となっています。

その一方、中世史の叙述としては、著者の考える家職制に基づいた叙述を、その狙い通り淡々と述べていきますので、ある意味読みやすくもあり、疑念を持つ他の論点に関しては、歯切れの良い筆致で制していきます。特に家職制に基づく家格の議論と、それだけには留まらない、時の権力者である後白河との会見と、家政機関としての問注所の成立こそが鎌倉幕府の組織的成立時期であると見做す著者の指摘は傾聴に値すると思います。また、三浦一族、三浦介の権能に対しても、国衙との関係から検断権は有していなかったと、在庁や在地の権限を比較的限定する立場の見解を見せています。更に、神護寺三像や伝北条時宗像についての見解を述べるに当たって、教科書記述を参考に持ち出す点など、著者の経歴(文科省初等中等教育局教科書調査官)が垣間見えます。

淡々と語られる歴史叙述。その中でもほんの少しだけ華やかな描かれ方をされる個所が、東大寺の再建供養。三浦義澄の単騎随行にも見える、三浦一族にとっても最大の盛儀であったと思われますが、朝廷と寺社勢力、武力装置、財政力としての武家という位置付けが最も顕著に示された点でも、著者の想いに最も相応しいシーンなのかもしれません。三浦一族の活動についても、類書に見られるような鎌倉幕府、執権政治内における活動を描く事より、京における朝廷、権門との交わりを重視して叙述している 点が特徴的であり、その結果、本書では承久の乱前後の京における三浦一族をはじめ、武家の活動が豊富に描かれることになります。

通史としての中世史を描く事を掲げた本書。特に京における動向を中心に、武家との関わり合いを描く事に重点に置いたため、宝治合戦までで全体の3/4(150ページ、本文は全203ページ)を費やしていきます。その結果、著者が弁明しているように、宝治合戦以降の後期三浦一族が生きた時代、通史としては鎌倉後半から建武新政にかけてはかなりの駆け足で物語が進められていきます。一方で、通史の叙述は徐々に少なくなり、まるで歴史の流れが朝廷から武家に移っていった姿そのままに、三浦一族の物語のウェートが膨らんでいきます。その結果、三浦一族の地方への広がりや、三浦一族の終焉など、極めて駆け足ではありますが、巻末にかけて、彼らの歴史がある程度固めて語られていきます。

通史としての叙述から離れ始めた巻末。本書の白眉は正に最後のエピローグ、燃え上がる炎をバックに表紙に置かれた三浦義明と三浦氏、そして三浦介の名称の伝説が僅か10ページ足らずですが描かれていきます。そこで描かれる、後世の人々が国家的な歴史上の働きより、英雄譚的な個人の活躍に想いを馳せている例を、社会的変化と述べなが図らずも著者自身が描いている点が何とも皮肉に思えてくるのです。

通史として中世史を描く事と、歴史上の一族を物語る事。あとがきでも著者が述べているように、どちらも両立させるべく描かれた本書を読んでいると、その想いを一書に収める事は、なかなかに難しいのだなと、感慨にふけながら。

<おまけ>

本書に関連する書籍のうち、本ページでご紹介している本達を。

三浦一族の中世と歴史文化ライブラリーたち1三浦一族の中世と歴史文化ライブラリーたち2

 

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