今月の読本「ロミオと呼ばれたオオカミ」(ニック・ジャンズ:著 田口未和:訳 エクスナレッジ)人と犬と共にいる事を選んだ野生動物と、極北の地に生きる人々の想いと葛藤

ここ最近で最も購入に躊躇した一冊。

とても興味深いテーマなのですが、表紙につけられたキャプションからも判るように、どうしてもこの手の本は内容的に偏りが出ざるを得ないので、一方的な称揚が延々と続く、読むだけでうんざりしてしまう本なのではないかとの危惧がありました。

でも、軽く立ち読みして、そして読んでみて判りました。本書はそのような危惧に対して、充分に応えてくれるという事を(気にされる方は、巻末の原注及び推薦図書をまずはご覧頂ければと)。

ロミオと呼ばれたオオカミロミオと呼ばれたオオカミ」(ニック・ジャンズ:著 田口未和:訳 エクスナレッジ)です。

2003年の冬、アメリカ最北の州、アラスカ州の首都、ジュノーの郊外に現れた一頭の野生の雄狼と、その後5年半に渡る、冬季の氷結したメンデンホール湖の湖上、そして湖畔における彼と人々との関わり合いを、同じ湖畔に住んでいた著者が綴ったエピソード集です。

本書が冒頭に掲げた危惧に対して応えてくれる点は、著者のキャリアにあります。長期に渡り、実生活そのものをイヌイットたちと共にし、北極圏における生活手段としてのハンターとしてのキャリアすら有する、ある意味このような著作には似合わない経歴。そして、ある時を境にハンターとしての生活を辞めライターとしての生活に入っていた著者の目の前に突如現れた狼と、著者を含め、多くの住民が生活のパートナーとして共にしている犬たちと結ばれていく、奇妙な友好関係、そして彼らへの好奇と好意的な眼差しと交差する、嫌悪感を漂わせるもう一方の視点。

著者は所謂リベラルの立場で(前回の大統領選挙の際に旋風を巻き起こした、サラ・ペーリンが登場したタイミングでもあります)、好意的な眼差しを以て、これらの経過を描いていきますが、その過去の経歴、そして野生動物を扱った著書を複数著すライターとしての矜持から、類書にある様な単なるファンタジーとして捉えるようなことはしていません。その筆致は、野生動物に対する正確な理解と、それに否応なく向き合う結果となったアラスカ市民の市民感情、そして行政機関の立場に至るまでを克明に記録していきます。その結果、本書は野生動物としての狼の生態と、彼と交流していく犬たち、そして惹かれていく人々と反目する市民たちそれぞれの立場を描くことに成功しています。

狼である彼自身は、決して語る事はありません。なぜそこに現れたのか、なぜ飼い犬たちと交流を続けるのか、これほどまでに人が近づくことを許すのか。その代わりに、ジュノーの人々の間に生まれた、彼によって巻き起こされた波紋と、それでも彼に惹かれていく人々の姿を観ていく事で、都市生活者にとっては憧れであるように見えて、実は複雑に利害が絡み合う、極北の生活の一端を本書から垣間見る事が出来ます。

人々からロミオと呼ばれるようになった一頭の狼から生まれたジュノーの人々の物語。著者は極力平静な筆致を心がけていますが、それでも彼がロミオと関わる間に手に入れた大切な宝物があったようです。ロミオを通して出来上がった、普段なら交流する事すら稀な「同志たち」に巡り合えたこと。そして、ファンタジーとしての表現を極力避けてきた著者が明らかな心象としての想いを語る、ある4月の午後の氷上でのシーン。冬が終わりつつある陽だまりの中に生まれた、本来有り得ない、人と、犬と野生動物が同じようにうたた寝を共にする一瞬。

5シーズンに及んだ、人と犬と野生動物が交わるシーンと、夢のような一瞬の出来事のあっけない結末は、本書をお読み頂ければと思います。そこには、本書が綴るもう一方のテーマが濃厚に記されていますが、読まれる方によってはかなり躊躇されるような内容かもしれません。

本書が動物愛護を目的とした、野生動物への想いや哀惜、知性を称揚するために描かれたわけではなく、極北に生きる、そこに交わる人々の物語として描かれた視点をしっかりと見据えた上で、本を通じてその奇跡に触れられることへの嬉しさを。

<おまけ>

こちらに素晴らしい書評を書かれている方がいらっしゃいますので、本書にご興味のある方は是非ご覧頂ければと。

本ページでご紹介している、生き物を扱った本、テーマたちを。

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