中央高速を東京から西に向かうと、笹子トンネルを抜けた後、急坂を転げ降りるようにして甲府盆地に下っていきます。
緊張を強いられる運転から、少し傾斜が緩くなってほっと一息つける場所にある釈迦堂P.A。
車をパーキングに入れて、丘を見上げると、ちょっと不思議な案内板を見かけます。
丘の上に立つ、大きく「博物館」と書かれた建物と、行き先を示す案内板。
パーキングエリアから博物館?、と首を捻ってしまいますが、とりあえず行ってみましょう。
道を渡った正面に博物館の入口が見えてきます。
ここが、日本でも珍しい「高速道路から直接訪問(も)出来る博物館」、釈迦堂遺跡博物館です。
こちらの博物館、 そのものズバリ、中央道を建設中に発見された縄文遺跡である釈迦堂遺跡の発掘成果を展示する為に建てられた、珍しい施設なのです(同じようなシチュエーションで、もっと大規模な遺跡であった、長野県諏訪郡原村の阿久遺跡には、残念ながら併設の博物館は存在しません。遺跡の脇に立つ収蔵庫内の一部の収蔵品が、遥か山懐に立地する、村立八ヶ岳美術館に展示されています)。
館内の喫茶室や展望室からは、このように釈迦堂P.Aの様子や笛吹の市街地を望む事が出来ます。【注意】ここから下の写真はリニューアル前に撮影された物です。現在は重要文化財出土品を全て陳列する、上に掲載したような陳列形態となっています。オープンスペースであった土器の展示もスロープを歩きながら眺めるスタイルへ変更されており、一部の土器は壁に埋め込まれたガラスケースへ移されています。この先の内容は、過去の展示の様子を記録したアーカイブとしてお楽しみください(2023年追記)
縄文土偶にお詳しい方ならご存知の、この博物館の名物が出迎えてくれます。
何と、こちらの博物館はカメラOKなので、お好みの写真を撮る事も出来ます。但し、フラッシュ厳禁ですのでスマホ撮りの際にはご注意を。
奥の陳列棚にずらっと並ぶこの名物、さあ近づいて観てみましょう。
この博物館の名物、それは国内で発掘された出土数の1割近くを占める、膨大な土偶たち。
目の前にびっしりと並べられた、土偶の顔を始めとしたパーツ類が見学者の皆様に向かって一斉にご挨拶です。
個性豊かな土偶たち。ちょっとおかしかったのが、真ん中の土偶にカメラの顔認識がばっちり反応した事(大笑)。縄文人の感性は、現代のエンジニアリングにも共鳴してくれるようです。
豊富な顔のバリエーション。どんな想いでこれらの顔を生み出していたのでしょうか。
ちょっとお気に入りが左の2つ。どこかで見た事がある様な顔つきではありませんか…?
宇宙人のような土偶の顔達。こちらの遺跡では多数の土偶が出土していますが、これらのように破壊されたり、一部のパーツだけの状態の土偶が殆どで、国宝土偶が2つも揃う、尖石のような華やかさはありません。
華やかさが無いと言いましたが、特徴的な出土物には事欠かない釈迦堂遺跡。
こちらのような、出産シーンをそのまま土偶にしたと考えられる、極めて貴重な出土物もあります(江戸時代までの出産同様、中腰の姿勢で出産していたと考えられています)。
そして、館内を奥に進んでいくと、この博物館のもう一つのお宝が見えてきます。
ガラスケースの中で、周りを威圧するように静かに佇む、この博物館でも大物、縄文土器としても大きな逸品中の逸品、水煙文土器。土偶には興味があるけど、土器はちょっと…という方でも、納得の迫力を持った芸術作品と言いたくなる土器です。
水煙文土器の後ろには、同時に発掘された土器たちがオープンスペースに展示されています。
もちろん、手に取る事は出来ませんが、ガラス越しではなく、縄文土器の肌合いを直に感じる事が出来ます(この展示方法は、尖石でも実施されています)。
これらの土器を作った際に余った粘土を序に焼き上げたのでしょうか、指跡が残る粘土や、粘土を入れていたと思われる、編んだ網の跡が残る粘土も出土されています。大量に土器、土偶が生産されていた事を示す、貴重な発掘物です。
生活に汲々としていたわけではなく、豊かな文化性を持ち合わせていた証拠。このような出土品は極めて珍しく、こちらの博物館では、名物の「桃の箱」にこの土鈴のレプリカを入れたノベルティも用意されています(土偶の顔が入っているバージョンも…欲しいですか?)。
縄文の世界から、ちょっと薄暗いエントランスを通って現代へと。
中央道のドライブに少し疲れた時にちょっと寄り道して、ひと時のタイムトリップなど如何でしょうか。
タイミングが悪かったのが悔やまれますが、夏休みを前にした7/15から、発掘35周年、重文指定10周年を記念した特別展示が開催されるそうです(第一期、9/7まで。普段は閉鎖している特別展示室が使われるはずです)。メインは大型土器。縄文土器ファンの皆様には必見の展示になりそうですね。
<おまけ>
似たようなテーマを扱ったページをご紹介。
- 桜の後は井戸尻考古館へ(縄文土器の集う里)
- 「仮面の女神」国宝指定記念で無料公開中の茅野市尖石縄文考古館へ
- 標高1300mの小さな美術館に縄文への想いが集う(八ヶ岳美術館・原村歴史民俗資料館とハイウェイの沿線遺跡群展)
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- 秋やすみのお散歩(塩尻・平出遺跡と周辺を1)平出遺跡と旧家の家並み
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- 今月の読本「縄文土偶ガイドブック」(三上徹也 新泉社)バランスの良い「見るための」土偶ガイドと考古学者の想い
- 台風を前にした夏の午後は、タケヤみその夏まつり「みそプラザ」で貴重な工場見学を
- 北アルプスにまつわる自然と人の営みを集めて(大町山岳博物館と4つの分野を跨ぐ特徴的な展示を)
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- 諏訪に生き、色彩をデッサンし光を刻み込んだ「描き続ける人」を(安曇野市豊科近代美術館と生誕120年・宮芳平展)
- 木曽馬の故郷と、ある種牡馬の物語を(開田高原・木曽馬の里と第三春山号)
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- 今月の読本「図鑑大好き!」(千葉県立中央博物館監修 彩流社)
すごいですね!感動です!是非とも一度訪れてみたいです〜