今月の読本「かなりや荘浪漫 星をめざす翼」(村山早紀 集英社オレンジ文庫)その苛まれた想いを遂げる道筋で

クリスマスを越えて、周囲はすっかり年の瀬モードの週末。

少し華やかな雰囲気が漂う世間様とは裏腹に、風邪をこじらせ、頭痛に悩まされ、鼻水を垂らしながら布団を被り続ける状態に嫌気が差してくると、どうしても本に逃げ出したくなる。

布団を抜け出し、暗がりの中でストーブを抱えてがっつりと歴史関係の書籍などを読んでいたら、頭痛が倍増してきたので、鎮痛剤飲みつつ、少し気休めにと積読状態にしてあった一冊に手を伸ばしてみます。

かなりや荘浪漫 星をめざす翼新ジャンルノベル系の集英社オレンジ文庫に書き下ろされた、村山早紀さんの新作「かなりや荘浪漫 星をめざす翼」です。

本作は昨年春に刊行された、「かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち」の続編となる一冊。著者のあとがき通り、一年を経ずして続編が登場しました。そして、本作のあとがきにもありますように、更にもう一冊の続編が予定されています。

かなりや荘に集う登場人物たちの紹介と、主人公となる茜音が、かなりや荘の一員となるまでを綴ったアプローチとしての一作目に続く、茜音とその周囲に集う人たちの物語を、主人公の茜音から少し離れて、親友であるモデルのユリカ、敏腕編集者の美月とその周囲の人物から描いてきます。

前作で語りきれていない登場人物がいる中、本作では更に登場人物が増えていくのですが、彼らの登場する舞台はこれまでの作品と少し様相を変えてきています。著者の作品で用いられる一貫した舞台である、かなりや荘がある風早の街をベースとしながらも、本作ではその舞台構成から少し離れて、出版社の会議室や、飲み屋のカウンター、そして神楽坂の小さな本屋さんと(エピローグではK王プラザホテルと思われる場所も)、更にコンパクトな舞台を用意しての、近接感のあるセリフのやり取りが前作以上に際立ってきます。

その中で、著者の作品に特有の、全ての登場人物がそれぞれに相手を想う心と、その想いの強さ故に逆に苛まれる自身との折り合い(邂逅)を求めていく物語が本作でも語られていきます。独白が続く、側に居てくれる人への溢れる想いと、それに応えられない、その事自体に委縮してしまい本心を明かす事の出来ない登場人物達。エピローグとして掲載された(3部作となったので、スペース的に余裕が出来たからでしょうか)茜音の母であるましろのストーリーは、ほぼ全編を通して彼女のそのような想いを独白で綴っていきます。許せない自分と、温かく許してくれて居場所を与えてくれる、かけがえのない人々と、それに対して冷淡と嘲笑を以て迎える人々。その狭間で苛まれながらも、生への眩しさを見せてくれる、何時も自分の側に居てくれる、もう一つのかけがえのない存在への想い。

しかしながら、これまでの作品と読み比べてみると、少し明るさも感じさせる本作。茜音を始めとする本編の登場人物、そしてましろのストーリーにしても、その旋律の過程と未来は決して明るものではないのですが、何処か未来を感じさせる、その先にある明るさを滲ませる筆致で描かれている点が、諦念だったり切迫感の中からストーリーを立ち上げて来た、これまで読んできた著者の作風と少し違ってきているように思えてなりません(私自身が、その間に著者が良く描く、逃げ遂せない「死」を目前にしたことも影響しているかもしれません)。

更には著者自身の独白でしょうか、編集者である美月の言葉を借りて、昨今の出版不況厳しさの中で本を送り出す人々に対する想いと、それを受け取ってくれる読者に向けたメッセージが織り込まれていきます。デジタルガジェットやSNSを好む著者らしい表現で、こう語っていきます。

「自分の好きな作品を買い求め、支持していく事で、作品を応援することができる。これは「魔法」なのかも知れない。ささやかで、でもたしかに、自分の望む、良い方へと世界を変えてゆく魔法」

その隣にいる大切な人を想うように、その想いに応えられない事を悩むより、僅かでもその想いが自分に向けられている事を心底感謝し、励みにし、そして再び前を向いて歩いていけるように。

その「想い」という小さな魔法は、あなたの側には居なくても、あなたには見えなくても、何処かであなたを励まし続けているのだから。

本作も続編が予定されているため、彼らの想いがどのように昇華されていくのか未だ不透明ですが(著者の作品の場合、続編が途絶える場合もあるので、全てが語り尽くされる事が無い場合もあります)、あとがきによれば著者の中では既にそのストーリーが着々と育ちつつあるようです。

P1060268八ヶ岳颪が吹き付ける、雪雲が晴れつつも雪が舞う真冬の陽だまりの午後に読んでいたその本の先に、登場人物達と共にゆっくりと育ちゆく新たなストーリーが、春の陽だまりのように暖かく、そしてしっかりと前を見据えた物語として、再び読者の前に現れてくれることを願いつつ。

kanariyasou_romanこれまで読ませて頂いた文庫本達と、ちょっとお遊びで…。

 

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