映画「この世界の片隅に」(2016.11.20)

New!(2017.2.3) : 公開からまもなく3ヶ月を迎える2月3日、これまでの観客動員130万人到達を記念して、新たに収録されたすずさんのナレーションによる、感謝を込めた「“すずさんのありがとう”動画』の公開が始まりました。どうぞご覧下さい。そして、宜しければ映画館に足を運んでくださると嬉しいです。

New!(2016.11.23) : 11/12から公開が始まったこの映画、次のプロジェクトとして海外展開が発表されていますが、作品紹介の為に監督を海外に送り出すためのクラウドファンディングが開始されました。

作品にご興味があり、趣旨にご賛同の方は、是非ご一読を(この文章を書いている時点0:10)で既に達成率80%を越えそうな物凄い勢いです)。

 

<本文此処から>

晩秋にしては妙に暖かい、土曜夜の立川。

何か、ぼーっとしたまま駅に向けて足を進める私の頭の中は、まだぐるぐるとこの2時間で起こった出来事が廻り続けている。そして、この文章を書いている今も、廻り続ける旋律は止まらない。

あれは何だったんだろうか、と。

まだぐるぐる回っている、自分自身の呟き。

制作支援メンバーとして、本ページのサイドバーに宣伝を載せている割には恥ずかしながら、クラウドファンディングに参加した際も原作の内容を知らず(上映見るまで原作も読まず)、監督に至っては、その作品性とは正反対の世界で著名かつ、世界名作劇場のファンとしては複雑な想いを抱いていた方だったので、かなりの躊躇があったのは間違いありません。

唯、なかなか世に出にくい、誰でもが観る事が出来る作品がアニメーション作品として世に出るために必要な、ほんの僅かな後押しをしたかっただけだったように思います。

でも、作品を観た今なら言えます、ほんの僅かでもその輪に繋がる事が出来て良かったと。

この世界の片隅に、クラウドファンディングお礼品クラウドファンディング参加者(制作支援メンバーズ)に送られたすずさんからの手紙と、メンバーズミーティング資料(残念ながら、遠方ゆえに参加できず。今回はあずさに乗って日帰りで)。

作品の内容は、あらゆる場所で述べられているかと思いますので、改めてこのページで述べる事はやぶさかかと思います。

こちらに掲載されている紹介記事を参考例として挙げておきます(他にもたくさんありますね)。

議論になっている部分や、セリフが入れ替えられた部分には、確かに映画を見ている際にも少し唐突感がありましたが(やはり原作未読でも判るところは判るのですね)、そこは、全体のストーリーとして監督が描こうとしているスタンスに則ったまでの事。

この世界の片隅に絵コンテ本とパンフレットある一人の女性が、色々な人と巡り合いながらも少女から大人の女になっていく物語は、営々と続けられる朝の連続テレビ小説そのものだと思います。ただ、一つだけ違う事、それはアニメーションとして、そして絵の中という本来虚構の世界ゆえに、更に現実に繋ぎこむために史実として、いえ、その時代を生きた方がいらっしゃる最後のタイミングで捉えられた事実を描き込みながら、物語の主人公であるすずさんが暮らしていた世界を築き上げた点。優しいBGMと温かみのある絵柄を用いて、観客を史実と物語の狭間に自然に誘ってくれる点に、最大の魅力を感じています。

細やかな人物描写、戦中に向けて厳しさを増し、少しずつ変わっていく日常を実に丹念に描く(それでも尺を詰めたと明確に判る部分があるのは、制作上やむを得なかったようです)その演出には、この世界にそのまま浸ってしまいたいと思わせる包容力を秘めています。少しおっとりしたキャラクターのすずさんのしぐさが起こす、時にくすっと笑わせるエッセンスを織り込む事も忘れていません。徐々に生活に慣れて、少し楽しみながらも、乏しくなり続ける資材や食料を色々と工面して乗り越えていこうと知恵を働かせ、近所の人々と協力して暮らしていく、すずさんや登場者達のコミカルな作劇には、大きな流れとは別に、そのような穏やかな時が、戦中、しかも軍都、呉を舞台にした人々の暮らしの中にもあった事を呼び起こしてくれます。

戦時下の薄暗い照明の室内や、日差しをいっぱいに浴びてスクリーンが客席を照らし出すほどに明るく描かれる夏の日。穏やかな瀬戸内海、軍艦が浮かぶ呉の海を遠望する山並みの美しい景色など、緩やかに移り変わる物語の世界にどっぷりと浸り込んでいると、突如、音響(特に鑑賞した立川のシネマシティは特別に音響調整がされていたようで、単なる迫力とは違う、むしろBGMに合わせた、ちょっとウエットで柔らかい音響)と監督がもう一つ得意とする真実味のある演出で、いきなり現実の世界に引き戻されます。場内を閃光で包む光と、その後に遅れてやって来る振動、激しい爆音、轟音、そして立ち昇る雲。本作品のもう一つの魅力であり、トラウマにもなりかねない、事実を突きつける厳しい場面が後半になると繰り返し押し寄せ、主人公のすずさんでさえその現実から逆らうことを許されません。女性原作者らしいといえば失礼でしょうか、自らに現実を突きつける事に対して妥協を許さない、それを乗り越えてもなお、日々が続いていくという事を自覚させようとする作品のテーマと、それをアニメーションならではの演出手法で表現しようとする演出、監督(ご夫婦です)。その厳しさに、館内のあちこちから、すすり泣く音すら聞こえてくるほどでした。

それでも、突き放す様な最後ではなく、その先に繋がる想いを示してくれるラストシーン、そしてエンディング(監督のオリジナルだそうです)へと繋がる物語には希望の色が色濃く描かれていきます。絶望する時も、悲しむ時もある。その原因が自らにある時、やりようのない想いを抱き、もう終わってしまいたくなる事もある。そんな時、自分の横に支えてくれる人がいて、周りのみんなが気に掛けてくれている事に気付いた時、まだ生き続けられると思える。繋がりを持てることは、他の人に対してもその優しさを分け与えてあげる事が出来る。

この作品を見て、もう遅いかもしれないけれど、そんなふうに、強く、しなやかに生きてみたい、そんな想いがしてくるのです。

この世界の片隅に、パンフレットのクラウドファンディング参加者リストパンフレットの最後に掲載された、製作委員会のリストとクラウドファンディングに参加された皆さんの名前リスト(エンドロールでも流れます)。

制作が実現した最大のキーとなった出資社さんのライバル新聞社の記者さんがこぞって公開前、更には公開後にも好評価を与える記事を書いているて事(普段は、お互いを貶しあうような某社さんでさえ)に、エンドロールの製作体制を観て改めて驚いたと同時に、この作品なら誰にでも観て欲しいと思わせる、素直に推せると思わせる魅力がある事は間違いありません。

決してドラマチックでも、アクションや華やかな恋愛模様もない地味な作品です(そのような意味で、往年の世界名作劇場のトーンも感じさせます)が、所謂新聞購読層と見做させる高齢者向きのノスタルジーな作品という訳ではありません。

一部の紹介で高年齢者が多く…と書かれていますが、実際に観に行った、土曜の夜に上映された満席の立川ではむしろ、お子さんを連れた家族、カップル、そして上演直前に続々と入ってくる女性の皆さんが目立つという逆のシチュエーション。

観て楽しいという作品ではありませんが、観て良かったときっと思わせる、前を向きたくなる、そんな世界がスクリーンと劇場に広がる作品でした。

そして、その世界の片隅にほんの僅かばかりでも繋がる事が出来た事に、素直に喜んでいます。

映画「この世界の片隅に」

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