今月の読本「桜風堂ものがたり」(村山早紀 PHP研究所)本と書店員さんが織りなす6つの物語が編み上がる時、一冊の本へ想いは結ばれる

New!(2017.4.15) :

New!(2017.1.18) : ご紹介しております村山早紀さんの小説「桜風堂ものがたり」が、本年度の本屋大賞、最終ノミネートの10冊に選ばれました。

本屋さんの日常を応援したいと願って描かれた作品が、多くの書店員さんの心を動かしたようです。今度は本屋さんの事を愛してやまない、より多くの皆様に、本作品をご覧頂ける事を願っております。

 

 

夏過ぎに発売の噂を聞き、秋には本屋さんに並んだとの話を聞いていたのですが、この僻地では本屋さんを転々と巡っても手に取る事が出来ず。

テーマ故、いや本を買う時の矜持として、なるべく一度は目を通してから手にしたい、どんな想いでこの本を書かれているのか、エッセンスだけでも読み取って、チラ見でもいいから中身を見てから買いたいという想いには勝てず、いたずらに時だけがどんどん過ぎ去ってしまいました。

制作支援メンバーズとして応援していた、映画「この世界の片隅に」の完成を見届けるために、久しぶりに地上に降りた(八ヶ岳南麓から東京に向かうと、正に天空から地上に降りる心地)際に、漸く立川のオリオン書房(ノルテ店さん)で出会う事が出来ました。既に第3版まで進んでいた事に少々驚きながらも、面陳だったことにちょっと喜びながら手にした一冊。じっくり読ませて頂きました。

桜風堂ものがたり今月の読本、「桜風堂ものがたり」(村山早紀 PHP研究所)です。

常々、本屋さんや書店員さんへの想いをSNS等で発信されている著者。これまでも作品の中でその思いの片りんを描いていましたが、遂に本屋さんを舞台とした長編小説としての一冊に結実したようです。

長編小説と書きましたが、その様相はちょっと異なるようです。どちらかというと短編作品が多い著者ならではなのでしょうか、主人公である書店員の若者の物語と登場人物毎に組まれたエピソードが、章ごとに折り重ね、編み込まれるように綴られていきます。一つ一つがサイドストーリー的な体裁を持つ、本と本屋さんを巡る6つの物語。主人公が勤めていた街中の百貨店に構える古参の書店とその同僚が描かれる3つのストーリーと、主人公が向かう先となる、山里の小さな書店とそこに集う人々の物語。そして、物語の背景と軸となる、主人公に繋がる二人の人物の物語が織り込まれていきます。表向きには幼げで少しメルヘンチックなストーリーや、著者にしては珍しく男性同士のやり取りがメインとなるストーリーも出てきますが、それぞれの物語は、著者特有の旋律を奏でていきます。

諦念とその思いを禊ぐ、贖罪の物語。

物語は結末においても解放されず、その余韻を残したまま、次のステージへと向かうようなそぶりを見せています(これは、著者が何時も述べるように、続編への伏線を残すことを意図しているようです)。ある往年の名脚本家が久しく忘れられたころに刊行する、一冊の本への想いに編み上げられるそれぞれの物語。その発端となる主人公とその本との巡り合い、繋がりの起点がやや弱いかなとも思わせますが、どうやら本編において、主人公である青年の物語は、それぞれの登場人物によって語られる物語のキーシチュエーションとして、または橋渡し役、プラットフォームに徹しているとも思えてきます。

そして、物語を動かしていく駆動力、トリガーとしては、著者が日ごろお世話になり、憧れ、時として戦場とまで述べる「本屋さん、書店員さん」の舞台裏がふんだんに描かれています。実際に本屋さんにインタビューして描かれたその側面、書架やPOPへの入れ込みや日常的な仕事ぶりの描写はかなり力が入っており、非常に興味深い一方、例えば名物書店員さんとして…と言われても、はてと首を捻ってしまう、内輪話的に見えてしまう時があるのも事実です(文芸誌とかに疎いせいですかね)。

全編に流れる書店員さんへの熱い思いと、本と本屋さんへの危機感を滲ませながら、厳しい中でもそこを愛し、生活の場とする登場人物たちが一冊の本に結び付く時、物語は終点に向かって力強く動き出していきます。それぞれのパートに分かれたストーリーが一つの物語に収れんするとき。それぞれが抱き続けた諦念は決して解放されることも、赦しを受けることもないかもしれません。特に主人公は舞台すら新たなステージが与えられますが(SNSとブログという極めて薄い繋がり合いから描き起こす点は、正にファンタジーでしょうか)、背景に色濃く描きこまれた彼自身の物語は、そのまま著者の創作が集う場所、風早の街に、ほかの紡ぎかけた物語と一緒に留め置かれているようです。

貴方は決してちっぽけな存在ではない。貴方の想いに直接応えてあげる事は出来なくても、貴方の想いをあなたの側で分かち合ってあげる事が出来なくても、たとえ僅かで、か細い繋がりであっても、その先には貴方の事をこんなに想っている人たちがいるんだよと、伝えながら。

融けない余韻を残しながらも、みんなの想いを乗せた本が送り出されるフィナーレーの舞台を、それぞれの見せ方、アプローチで飾った登場人物たちは、次の物語へステップを踏んでいく。更に厳しくなる環境の中でも、本と本屋さんと書店員さんの日々は再び巡り続ける。

本と、本屋さんと、書店員さんがそこにいる限り続いていく物語に描かれたエピソードと煌めき、僅かばかりの奇跡を一冊の本として昇華した本書が、これからも、その「本屋さん」が育み続ける物語の一ページであることを願って。

<おまけ>

本ページでご紹介している、村山早紀さんの著作を。

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