今月の読本「築地-鮭屋の小僧が見たこと聞いたこと」(佐藤友美子 いそっぷ社)これからも此処で。ライターから場外に飛び込んだ「しゃけこさん」が受け継いだ、商うこと、集う場所への想い

New!(2018.10.21) : 本作の著者、佐藤友美子さんが10/20のTBSラジオ「久米宏 ラジオなんですけど」にゲストとして登場されたようです(いきなりカウントが跳ね上がったので驚きました)。只今、放送内容全文を閲覧する事が出来ます。こちらからアクセス。

 

<本編此処から>

いよいよカウントダウンが始まった築地市場の豊洲移転。

でも、豊洲に移るのは魚市場だけで、その周囲に広がる「築地場外」と称される海産物やそれを扱う人々が使う道具、空きっ腹を癒す食事を提供する店が立ち並ぶ一角は、新たに開設された仲卸が集積するビルと共に築地に残る事になっています。

魚市場の移転が大々的に取り上げられ、数々の関連書籍が刊行される中、ちょっと異色な「場外」を舞台にしたエッセイ。単なる魚河岸物語であればもう何冊も読んでいるので手を出さなかったはずですが、著者の横に吊るされたその姿に釘付けとなって手に取って読み始めると、実に面白い一冊。

今回は「築地-鮭屋の小僧が見たこと聞いたこと」(佐藤友美子 いそっぷ社)をご紹介します。

著者は築地場外で鮭屋を営む女主人。でもその経歴はちょっと異色です。ライター家業に行き詰った先に偶然訪れた年末の築地場外。そこで買い物をしようとした鮭屋の忙しそうな様子に思わずアルバイトを申し出た著者は、その後30年の時を経て、代を継ぎ店の主として商売を切り盛りするようになっていました。時折見かける魚河岸のおかみといった経歴ではなく、店を委ねられた先代の女主人から5年前に入れ替わりで切り盛りを任された小僧上がりの著者。

本書の魅力は、雇われ小僧としての好奇心から覗く魚市場、場外の姿と、現在の商い人として生きる場となる場外、そして糧を与えてくれる鮭への想いの双方が等しく描かれる点。

賄のために歩き回った市場内で見聞きした事、美味しい魚の食べ方。時にあしらわれながらも多くの市場の人々から手ほどきを受けた扱い方のいろはを、そのまま自分の仕事の肥やしとしてしっかりと実に付けていく過程を、自らを振り返りながら綴っていきます。男社会の中でもしっかりと財布の紐を握りしめて帳場のど真ん中で店を切り盛りするおかみさん達に憧れ、魚の知識の無さを懇々と諭されたりもしますが、年月を経て今度は教える側の立場に立ち、市場の歴史を綴る事にもなります。遂には雲上の存在ともいえる生き字引と言うべき往年の旦那衆に話を聞きに行く事になりますが、その際にはライターとしての取材力が遺憾なく発揮されます(ちょっと失敗も込みで)。

ここまでですと普通の魚河岸繁盛物語。しかしながら本書が素晴らしいのは、後半から自らの商売である鮭のことを語り、更にはなかなか語られる事が少ない「場外」の歴史を教えてくれる点です。

東日本大震災を契機に、その扱う商材が送り出されてくる場所への想いからボランティアで被災地に通い始めた著者。その後、各地の鮭を扱う地元へ足を延ばし、普段は電話で、時には市場で顔を合わせる商いの源を届けてくれる漁師達、鮭ならではの美味しさを膨らませる加工を施してくれる人々の元へと足を運んでいきます。表紙で著者の横に吊るされた見事な枯れ方をした南部鼻曲り、震災を乗り越えてその干物を作ってくれる人々にまた商売が支えられている事を実感していきます。

そして、自らが日々商売を行う築地場外に秘められた意外な歴史。既に殆どが鬼籍に入ってしまった開設当初の事を知る方々から聞き取った話と、今は店の奥でどっしりと構える最盛期を知る親父さん、お母さんたちの話を聞きながら、この場所が佃の衆から始まり、日本橋だけではなく、全国から商いのチャンスを狙って集まってきた人々が築き上げた、皆が集う場所であることを再確認していきます。

最後に綴られる、大きな屋台骨である魚市場本体が豊洲に移った先の大きな心配。でも暖簾を受け継ぎ商い人となった著者は商売は戦いだと自らを奮い立たせて今日もシャッターを開けに店に向かいます。

ふらっと寄りかかったその場所で、送り出す人とそれを調理し、食す人の仲立ちとなる矜持を持つようになった30年の歳月の断片に、市場そして場外の歴史と自らの商売、商材への想いを込めて述べるエッセイ。きっと大丈夫、そこに人が集う限り、明日も商売は続く。

著者の手によるカラー写真も豊富に掲載された、築地市場、そしてこれからも残る築地場外、鮭の産地の姿を収めたガイドブックとしても楽しめる一冊。

本書に描かれる、市場、そして場外の歴史的な経緯、大旦那の方々への取材。その執筆には築地をテーマにしたテレビや雑誌、書籍等で頻繁に登場される、大物業会の職員であり、元博物館職員と言う著者と双璧を成す異色の経歴を持つ、築地での普及活動でタッグを組む冨岡一成氏の協力に大きく負っています。魚や市場の知識では師匠筋でも、本書では「しゃけこさん」こと著者には、その容貌からか度々「メカジキ君」と呼ばれ親しまれています。

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