リニューアル1周年を前に、上越市立水族博物「うみがたり」へ(過去の記憶と未来のアミューズメントを繋ぐ場所)2019.6.15

リニューアル1周年を前に、上越市立水族博物「うみがたり」へ(過去の記憶と未来のアミューズメントを繋ぐ場所)2019.6.15

天候が目まぐるしく変わる梅雨の6月。

昨晩から雨が降り続く八ヶ岳南麓を離れて、北へ向かいます。

上越市立水族博物館全景途中、激しい雨と強い風にハンドルを取られながら高速道路を走り続ける事、3時間。雨が上がり、少し暑さすら感じられる日本海を望む浜辺に建つ、2018年に3回目となる新築での改装成った、上越市立水族博物館。近年の美術館のようなコンクリートの打ち放しとガラス張りを組み合わせたモダンな外観。「うみがたり」との愛称が付けられています。

こちらが以前の水族館外観。90年代に増築されていますが、如何にも昭和の雰囲気を漂わせるレトロな佇まい。現在は解体されて駐車場となっています。

2年前の閉館の際に訪れて以来、改めて訪問しようと決めていたのですが、リニューアルから丁度1年を経て、漸く訪れる事が出来ました。

上層階から下へ向かって動線を引く、近年の博物館などでも多く用いられるレイアウトコンセプトを採用するため、エスカレーターで登る最上階の3階がエントランスになります。エントランス前に広がる、日本海を同一視線の延長で望むテラス。この水面自体がメインの大水槽の水面そのものとなっています。

では、館内を少しご案内。各所の案内表示(サインシステム)にはこのようにペンギンのデザインが採用されています。

先ほどの日本海テラスの下に廻り込むと、メインの大水槽を横から眺める事になります。スロープで下りながら水面近くに群有する魚の群れから徐々に底に住む魚、水中トンネルへと、水深を下げながら眺めていく事になります(反対側に下段から眺めている方が映っていますね)。

下段側に廻り込むと、このように水中から水面を眺めるような形になります。

従来あった大水槽の様に全面アクリル張りというスタイルではなく、コンクリートの海底を囲う様に組まれた要所の壁にアクリルの大きな覗き窓を取り付けて水槽として構成していくスタイル。水槽の容積は大きいですが、このように分割することでアクリル面の面積(=コスト)を抑えているようです。

日本海を1/10000スケールに表現することを狙った、水槽のコンセプトを示す解説板。休日で多くの見学客の方が訪れていましたが、薄暗い通路に黒地の解説板という事もあり、読まれている方は意外と少ないようです。

洞窟をイメージした水槽上端の窪みには狙った通りなのでしょうか、サメたちが住みついているようです。

メンテナンス用の意図もあるのでしょうか、大水槽を支える天井にはこんなカッティングも。

以前の大水槽。バブル期に構想された事もあるかと思いますが、当時国内で最も厚さのある巨大な一枚物のアクリル板を用いた正面と、エスカレーターで上下できる2層構造というパノラマ感を優先した水柱スタイルの巨大水槽。飼育されている魚達は変わらなくても、水槽から伝わるイメージは大きく変わりました(ちなみに熱帯魚水槽を思わせるアクアブルーとイエローの水中照明色は、指定管理者制度が導入された最末期に変更されたものです)。

ペンギンのオブジェに誘われて、暗い水族館部分を抜けていきます。

スロープを降りて明るいテラスに戻ると、3面のデジタルサイネージがお出迎えしてくれます。

本館のもう一つのテーマである、世界最多の飼育数を誇る、マゼランペンギンの展示スペース、冒頭で彼らの故郷であるアルゼンチンにおける保護活動の様子が紹介されます。全面ガラス張りのテラス、豪雪地帯に立地する水族館らしく、屋内からでも楽しめるよう、冬季の見学者への配慮が伺えます(窓の下には空調が仕込まれているようです)。

テラスの外は彼らの故郷、パタゴニアの海岸を模した景観展示を採用しており、プールへ上り下りが出来る岩山や産卵のための巣となる穴倉が多数用意されています。

砂山の上でのんびりと寛ぐマゼランペンギンの夫婦。解説の方によると、つがいの絆は長く続くそうです。

時折、順路に当たるウッドデッキの上を、プールから上がって巣に戻るペンギン達が歩いていきます(縦横無尽に横断するのを防ぐため、後になってプランターを置いたようです)

時にはこんな風に、見学者の前を横切るシーンも観られます。生態展示の中に人が迷い込むシーンを作り出す、そんな試行錯誤の一端です。

群れとなってプールの上で泳ぐマゼランペンギン達。

以前のマゼランペンギンの展示スペースを建屋の屋上から撮影した物ですが、意外な事に、展示スペースは殆ど変らず、オープンスペースだったプールの水面に至ってはむしろ狭くなっている印象すら与えます。

テラスの壁に掲示された、この場所を象徴する解説。1993年から始まった(旧)上越市立水族博物館におけるコロニー形成を狙った多頭飼育によるマゼランペンギンの飼育実績と現地・パタゴニアとの連携を示す解説パネル。

100羽を超えた繁殖を達成し、すみだ水族館をはじめ各地の水族館に送り込まれ、その後も近親交配を防ぐために全国の水族館と相互に移動されるマゼランペンギンたちの母体となった旧水族館における飼育成果。大きな実績を有するその飼育の経緯や現在の保護活動の様子はデジタルサイネージを使ってリピートで流されていますが、こちらも余り足を止める方はいない様子。そして世界最多を誇る一方で、意外なほど狭い展示スペース(バックヤードがどの程度のスペースなのかは判りかねますが)。

じつは、この展示エリア、施設所有者である上越市でも指定管理者である八景島でもない、地元有力土建会社社長の私費による全額寄付で整備された、本館の付帯施設(テラスにその故の記載がされています)。旧水族館の実績を繋ぐ姿は少し不思議な形で次へと紡がれたようです。

そのような意味で少し不思議な感触を受けながら1階に降りると、迷路のような通路の先に置かれた、ちょっと寂しい生態と保護活動への寄与を紹介する展示ケースたち。

展示ケースへ通じる通路を折れ曲がると、ペンギンたちのプールを水中から眺める事が出来る、やや狭い回廊になっています。

水中をスムーズに上下にホバリングするマゼランペンギン(後ろ足で浮力のバランスを取っています)。

面積方向では狭くなった印象を受けますが、建屋2階分の深さが取られたため、彼らの泳ぐ姿から新たな発見が生まれる、新しいマゼランペンギンの展示スペース

群泳でのシーンを水中側から眺められるのはこの水族館の大きなポイント。

多数の飼育実績に裏打ちされた多頭飼育によるコロニー内の多様性を魅せる生態展示と、断面構成のレイアウトによって、これまで以上に彼らの様々な姿を見る事が出来るようです。

此処までで一周ですが、以前の展示と見比べながら、ちょっと悩みながらもう一周してみます。

(ご注意:一度1階まで下ってしまうと、エントランスまで戻らない限り、上の階に上るためには中央のエレベーターを利用する以外手段がないようです。1階エレベーター前は渋滞状態)。

イルカショーが始まる時間となったので、再びオーシャンビューとなる3階へ。敷地外とはいえ、視線の向こうに横たわる電線と電柱がとても残念。

ショーの開始直前、遊び道具であるブイを放すように担当飼育員の方が何度もゼスチャーを送っているのですがなかなか放してくれず、餌は使わず何とか引き剥がそうと奮闘する事数分、満員立ち見で膨れ上がったスタンドの皆様からも笑い声が聞こえてきていましたが…これも演技だったのかも。

ショーが終わった後。こちらのプールも大水槽同様に2層構造になっていて、2階のフロアーから水中が眺められるようになっています(降雪時の展示やショーにも対応するためのようです)。何故か目をつぶって仰向けになって泳いでいる事の多い2頭。

撮影しているとこちらに気が付いて、目を見開いて様子を伺ってくることもありました。

ショーの内容はご覧頂いて、という感じかと思います(入館料にはマリンショーの観覧料も含まれています。マリンショーは本館の運営母体である八景島で20年以上前に観て以来かも)。ただ近年の議論にかなり敏感になっているのでしょうか、パフォーマンスを優先するより、人とコミュニケーションを取れる彼らの知性の素晴らしさを訴え、ラストの演技では飼育員の方と一緒に水中で演技を行う事で、一緒に楽しんでいる、彼らは人のパートナーと成り得るというイメージを観客の方に持ってもらいたいというメッセージを感じる内容でした。

大水槽へ下るスロープの通路反対側の壁には小さな水槽が幾つも埋め込まれています。汽車窓形式の水槽は以前の水族館のイメージをそのまま伝える、日本海と日本の魚達を紹介する水槽群。トップバッターでメバルたちが出迎えてくれるのですが、どうしても視線の正面にある大水槽の揺れる水面と水中を往く群泳する魚達の姿の方へ行ってしまうようで、工夫を凝らした水槽にも足を止めてくれる方が少ないようです。

壁側の小さな水槽には、日本海を往く魚達として新たなテーマに加えられたアユやサケといった降海性を持つ魚達の稚魚も展示されていました(こちらはサケの稚魚、常時展示とはいかない筈ですが)。

以前の汽車窓水槽の姿。円柱レイアウトがそのまま大水槽を囲む通路の壁側にお引越ししたような感じです。

こういう渋い擬態展示、とても小さな水槽なのですが、結構好きです。

所謂「タコツボ」そのまんま。

多数ある小さな水槽のメンテナンスは大変だろうなと思いますが、開館からまだ1年足らずにも拘わらず、多数の水槽で縁の黒塗り塗装が剥がれ、所によっては漏水箇所から塩が吹き出すなど、ちょっと気になる施設状態です。

そして、以前は数少ない生態展示を見せてくれていたニッコウイワナの水槽。スペースは少し小さくなったようですが、淡水コーナーのメインとして水流を与えた形での展示が継続されていたのは嬉しかったです。

以前のニッコウイワナの水槽。水流に向かって泳ぐ習性がよく判る展示でした。

1階のピロティ前にある企画展示スペースには、現在話題となっている海洋ゴミ、マイクロプラスチックに関する啓蒙展示も行われていました(記者の方が取材に入っていたようです)。

やはり海を臨む事が大きな楽しみなのでしょうか。

県外ナンバー、特に長野、松本ナンバー(中には諏訪ナンバーも)が多くみられる駐車場を後にして、午後になって眩しい日射しが差し込んできた梅雨晴れの日本海。

吹き続ける強い潮風を受けつつ、波立つコバルトブルーの海の眩しさに暫し魅入りながら。

これまでの旧水族館が培ってきた飼育、繁殖活動の先に、最新の機能的な展示メソッドを与えて新たなアミューズメント施設として生まれ変わった、新・上越市立水族博物館「うみがたり」。

展示メソッドが進むほどに解説や説明へ意識を繋ぎ止めるのが難しくなるのかな等と考えつつ、水塊を強くイメージさせる暗い大水槽を巡るスロープの先に対を成す、日差し溢れる眩しいテラスのソファーで寛ぐ見学者の方々と、その向こうで寛ぐマゼランペンギン達の姿に色々と想いを重ねながら。

 

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