今月の読本『世界がわかる地理学入門』(水野一晴 ちくま新書)気候区分で巡る、地球を舞台に飛び出した日本のフィールド研究者たちが魅せる世界の素晴らしさを

今月の読本『世界がわかる地理学入門』(水野一晴 ちくま新書)気候区分で巡る、地球を舞台に飛び出した日本のフィールド研究者たちが魅せる世界の素晴らしさを

毎月新刊が刊行される新書は、各社のレーベルである程度得意分野やテイストでセグメントが分かれるようですが、今回ご紹介するのは、明らかに中公新書さんや岩波新書さんが得意とされるテーマ。しかしながら、この分野では珍しい、ちくま新書さんから刊行された一冊のご紹介です。

世界がわかる地理学入門』(水野一晴 ちくま新書)です。

著者は地理学の研究者。地理学とは非常に広範な分野をカバーするので、果たしてこのテーマを掲げた場合、どの部分に着目して描くのかにまずは興味を惹かれます。著者は植生及びその環境を研究されていますが、同時に世界50か国以上を廻ったフィールドワークの達人。その知見を最大限に生かした内容は、単なる地球環境や植生を取り扱った本とは一線を画する内容になっています。

全地球の気候区分(ケッペン気候区分)の説明から始まる冒頭や、地形、気象に関する解説は文系の方にとってははちょっと頭が痛くなり始めるかもしれませんが(ブルーバックスではないので数式は出てこないですよ)、ここは我慢で読み進めていただきたいところです。なぜなら、著者の想いはその後に綴られる豊富なテーマが地球の気候と環境によって形作られていることを理解してほしいと願っているからです。

その先に広がる世界。美しくも豊富な写真(電子書籍版はフルカラーらしいです、ちょっと羨ましいかも)で飾られる、地球を代表する自然や動植物の姿、その地に暮らす人々。これらはすべて営々として続いてきた地球環境そのものが作り出した事を、その仕組みとともに丁寧に説明していきます(お約束の場所以外にも、マンハッタンやストックホルムなど、ちょっと意外な場所も紹介されます)。

これだけですとやはり自然環境の本なのではと思われてしまうかもしれませんが、本書が出色なのは、さすがに人文に強い筑摩書房らしく、その環境で暮らす人々の姿、所謂人類学や農業、経済学的な視点の記述を、自然環境を語る以上に詳細に述べていきます。世界を廻った著者の豊富な知見と、他の研究者の成果、提供された写真を豊富に掲載することで、自然環境の幅広さ、素晴らしさを伝えると同時に、そこに生きる人々の、我々の想像を超える生活する知恵とその姿も併せて述べていきます。特に各気候区分に特有のその地に長く住み続ける人々の姿を、狩猟採集民、牧畜民、極地の生活、山岳民、そして都市住民と、生活スタイル、地形や環境ごとに述べていきます。世界中に暮らす人々がなぜそのような生活をしているのか、人類学や民俗学的視点の根底は、自然環境に強く影響を受けている事を明確に示していきます。

すばらしい世界旅行や兼高かおる世界の旅といった往年のTVドキュメンタリーが伝えてくれた、人と自然が交わる世界の広大さ、自然と人々の生きる姿と、その先に繰り広げられる歴史や経済活動は、決して切り離すことなく密接に結び付いて、我々はその中で生きていることを教えてくれたあの作品たちを見た時の感動をそのままに伝えてくれる本書。

そして、本書で忘れてはいけない点は、文中の引用や巻末の参考文献をご覧頂ければ分かりますように、その多くの成果が日本人の研究者たちによってもたらされたと言う点です。地球をフィールドに世界に飛び出した日本の地理学、人類学といった人文系の研究者や、動植物の研究者、地形、土壌、気象、地球環境といった科学者、さらにはプランテーション植物やその取引といった農学や経済学まで。豊かな研究環境の発展の中で世界中で活躍するたくさんの日本人研究者たちの成果を著者は自らの研究分野を述べる以上に取り上げていきます。

今や世界中で研究をリードする立場となったこれらの研究分野における日本人の研究者たちの成果が豊かに語り出す、気候区分で世界を巡る地球の物語。

あの頃、TVのブラウン管から覗く事しか出来なかったフィールドで、多くの日本人研究者の方々が活躍されていることを実感しながら、その世界の広さと美しさに心打たれる一冊です。

 

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