今月の読本「奇妙な孤島の物語(原題:ATLAS OF REMOTE ISLANDS)」(ユーディット・シャランスキー:著 鈴木仁子:訳 河出書房新社)地図の片隅で波間に揺れる、人が刻んだ白昼夢の欠片

今月の読本「奇妙な孤島の物語(原題:ATLAS OF REMOTE ISLANDS)」(ユーディット・シャランスキー:著 鈴木仁子:訳 河出書房新社)地図の片隅で波間に揺れる、人が刻んだ白昼夢の欠片

余りにも不思議な本。

本書と同じフォーマットを持つ、同じ版元の新刊「呪われた土地の物語」と多分一緒に本屋さんに入ってきた、2016年刊行のこの一冊。綺麗な水色の装丁に誘われてページを開き始めると…、読者は見知らぬ物語へといきなり旅立たされることになります。

今回ご紹介するのは「奇妙な孤島の物語(原題:ATLAS OF REMOTE ISLANDS)」(ユーディット・シャランスキー:著 鈴木仁子:訳 河出書房新社)です。

まず、2009年にドイツで原書が刊行された本書を、フランスの書籍見本市で発掘して日本語訳を与えて刊行するという、殆ど蛮勇ともいえる英断を下した版元さんと編集者さん(あとがきで訳者の方が紹介しています)に深い敬意を表します。このようなマイナーを超越した、それもとびっきりに不思議な内容の一冊。部数が出るとは到底思えませんが、本書の刊行1年前に送り出した「秘島図鑑」が余程好調だったのでしょうか、「何故か」出てしまったと評したくなる一冊です。

但し、本書は前述の書籍とは全くフォーマットが異なります。世界の秘境の果てとも言える絶海の孤島の概要をお手軽に紹介するガイドブックや孤島の写真集、wikiまがいのトリビア本だと思って本書を手に取ると、瞬時に振り落とされます。また、地理好き、地図好きの方にとっては、ページの左側に描かれた、ドットパターンで陰影が描かれ、人が刻み込んだ跡を蛍光オレンジの眩しい色で記す地図に興味を持たれるかもしれませんが、右のページに綴られる文章には一貫した記述もなく、その内容には首を傾げっぱなしになるかもしれません(嗚呼、これをにやけながら読んでいる私はどうしようもない人間かも…)。

地理の本でも歴史の本でもない、もちろん旅行ガイド(そもそも「冒険家」でも辿り着けるかどうかすら怪しい島も数多)な訳もありません。更に言えば、日本語の副題にあるように、著者はこれらの島に一カ所も訪れた事が無く、今後も多分訪れないであろうと表明されています。

旧東ドイツ生まれのブックデザイナーが手掛けたこの一冊。冒頭のはじめにと、巻末の訳者あとがきには、流石に内容を気にされたのか、どちらも細々とその経緯が書かれていますが、更には文学かもしれないなど言い出す始末。その内容に振り回されるといたずらに混乱を招くだけで、多くの方には依然としてその経緯も筆致も、意図すらも判然としないかもしれません。

地図に惚れ込んでしまったデザイナーでもある著者がその片隅に描かれた、巨大な地球儀の中にポツンと描かれた離島を見た時のインスピレーション。そのインスピレーションのままに、一つの島に一つのストーリーを捧げて描く本書。

発見し、訪れ、領土とした人々の複数の言語で示される島の名前や、山や川、岬の名前。各島から三方位で示される近隣の島/大陸までの距離と、人が辿った跡を示す月日を示す線表。

ドライでシンプルすぎる程の表記ですが、左のページに描かれる海を示す水色と点描による陰影、そして蛍光オレンジと言う僅か3色で示す、絶海の孤島を印象付ける絶望的な程の寒々しさがデザインからも確かに伝わってくるその構成に、ページを開く毎に戦慄が走ります。

そして、右のページに描かれる、各島に添ったストーリーには一貫性はありませんが、一つだけはっきりしている事があります。そこに「人が居たらしいという事」。もはや無人島になってしまった島も、元々無人島だった島も、多くの人がひしめき合う島も、独り取り残されてしまった島も。ユートピアと称される島も、人の手で住めない場所に仕向けてしまった島も。全ては「人がなし得た物語」が添えられていきます。

人なしでは地図は生まれず、人が辿り着いた証として地図が描かれ、地名が付され、道が切り開かれ、住み、そして去る。地図が描かれるという行為自体、人のみが為し得る事である本質を、地図の片隅にそっと添えられる離島に見出した著者は、その愛おしい程の場所にそっと付された物語へと視線を向けていきます。その著述の裏側にある膨大なバックグラウンドとしての物語の中で、著者の意図が敢えてそうしたのか、はたまた偶然か。ページをめくる度に、左のページの寒々しい孤島の地図に呼応するように、絶海の孤島への悲壮な旅路を思わせるように、寒々しい余韻を残す物語ばかりが綴られていきます。

著者のインスピレーションによって選び取られた絶海の孤島、最果ての地図に添えられた人々の物語。その物語は本当に起きた事なのか、単なる絵空事なのか。その姿を見たものは、その物語を伝えたのは、僅かにかの地に「辿り着いたはず」の人々だけ。著者が地図の片隅から掬い上げた、波間の向こうに見え隠れする島影のように、波濤に消える白昼夢のように、浮かんでは消えていく物語。

波間に揺れるその島影に何が見えましたか。

 

今月の読本「第四の大陸」(トビー・レスター:著 小林力:訳 中央公論新社)ローマカトリック世界の閉塞から飛躍を地図の歴史に載せて

今月の読本「第四の大陸」(トビー・レスター:著 小林力:訳 中央公論新社)ローマカトリック世界の閉塞から飛躍を地図の歴史に載せて

本文ページ数474頁。

私の夏休みを半ば持って去ってしまった一冊は、かなり読む方を選ぶ一冊かもしれません(そして、幸運にも選ばれた方にとっては、嬉しくもちょっと悔しい時間泥棒でもあります)。

帯でも謳われる、1000万ドルという法外な価格を払ってまでアメリカ議会図書館が買い取ったという、地図が好きな方なら誰でも知っている伝説の地図「ヴァルトゼーミューラー世界図」。本書は史上初めて「アメリカ」の名が記された地図に纏わる物語が描かれた一冊のようですが…果たして。

第四の大陸第四の大陸」(トビー・レスター:著 小林力:訳 中央公論新社)のご紹介です。

本書のプロローグで描かれる「ヴァルトゼーミューラー世界図」発見までの胸躍る様なストーリー。そして良く知られたこの地図に初めて書かれたアメリカの名の由来ともなったアメリゴ・ヴェスプッチと、地図の製作者であるヴァルトゼーミューラー。冒頭だけを読むと、彼らと地図の成立に纏わる物語が全編に描かれているように思えますが、実体は大きく異なります。

全19章で語られる物語のうち、実際の「ヴァルトゼーミューラー世界図」の製作に関する記述は最後半の僅か3章、全体の2割を切っています。直前で語られるアメリゴの物語を加えても120ページほどで、全体の1/4に過ぎません(プロローグを入れて漸く3割程度)。では、本書は残りの3/4には何が描かれているのでしょうか。

冒頭の売り込みとの乖離に疑問を抱えながら読み続ける読者を遥かに置き去りにするように、著者が本書で描こうとしているテーマは始めから極めて明快です。そのポイントは類書が歴史の流れに準拠して描く事で欠落してしまう視点を、敢えて13世紀から描き始める点から明らかになります。

著者の描こうとするストーリー、それはローマカトリック視点での歴史と世界観の変貌を、地図という世界観を示す象徴を用いて示す事。その延長としての「ヴァルトゼーミューラー世界図」に込められた想いを描くことを主眼としています。

所謂TO図や、旅程、マッパ・ムンディといった表現手法。それは聖地への旅程やキリスト教的な世界観が成し得た世界を描写する為に作られたもの。その記述は地図とは地形そのものを表すという現代的な感覚が失ってしまった、表現すべき世界観を表すものであることを改めて思い起こさせてくれます。西を大西洋に仕切られ、東を聖地、そして南と聖地の先は異教徒によって抑えられ、閉塞した地中海を中心とした13世紀のキリスト教世界。旅程以外の方向性すら必要としないその狭い地図で描かれた世界の向こうからやって来るもの、モンゴルやオスマントルコのキリスト教世界への侵攻の衝撃が、その後の世界観を大きく広げる役割を果たしたことを示していきます。

外からのインパクトに対する対抗と憧憬として、同じく世界の外に存在するであろう、救世主プレスター・ジョンへの希求。キリスト教的世界観が生み出す、魑魅魍魎的な非人間の居住する世界とその先の世界の果て、地上の終端と水球の裏側にある反世界。今では妄想と軽く切って捨ててしまうような内容ですが、当時は絶対であったこれらの世界観。しかしながら、マルコ・ポーロに代表される大陸を東西に行き交った僅かな商人や、大ハーンの元まではるばる旅をした修道者、教皇使節、そして船乗りたちの知識により、これら旧来の縛られた視点が徐々に書き換えられていく過程を、地図の描写の変化と共に丁寧に記していきます。

そして、本書で最も重要なポイントとなる、フィレンツェで発祥した人文主義と、そこからもたらされたギリシャ文化の再評価としてのプトレマイオスの「ゲオグラフィア」再発見が語られていきます。類書では歴史の順序だての関係でどうしてもプトレマイオスが先に語られてしまいますが、本書ではビザンツ帝国の消滅と所謂イタリアルネッサンスの歴史的経緯の流れの中でプトレマイオスの再発見を描くことで、彼の図法がどのようにキリスト教的世界観の中で組み込まれていったのかを把握できるように述べていきます。その目的は科学的、商業目的の為ではなく、あくまでも人文主義のため。それは商業によって繁栄を築いたフィレンツェにとって、新たなキリスト教世界、新たな世界帝国を俯瞰する手法として復活を遂げた事が示されていきます。

新たな世界を表現する手法を手に入れた(再発見した)キリスト教(ローマカトリック)世界。その世界観が示す先の地へ向けて、今度はポルトガルとスペインが乗り出していきます。所謂大航海時代、香辛料と黄金を求めて「ゲオグラフィア」の先に描かれるはずの世界に乗り出していきますが、そこには必ずキリスト教的目的、プレスター・ジョンやキリスト教が示す世界の果てに存在する「楽園」探すことが当然のように求められていきます。新たに描かれる地上が出来る度にその先に描かれるプレスター・ジョンの存在とその王国。地図を描く目的の一つに宗教的な意義がある事をここでもはっきりと示されていきます。そして、コロンブスの新大陸発見とヴァスコ・ダ・ガマの南回り航路によるインド到達を以て、プトレマイオスが描いた地平を越えた先にキリスト教(ローマカトリック)世界が踏み出すことになります。そこにはプレスター・ジョンも灼熱帯、反世界もない、ただ3つの大陸が描かれた世界が広がっていますが、依然として世界の末端はあいまいなまま。魅惑の島ジパングへの道のりは東か西か、その先の海は繋がっているのか、それとも沈んでいくのか…。

最終的にはマゼランの世界一周航海でこの決着がつくわけですが、この決着がつく少し前、未だアメリカ大陸の存在もあやふやで、太平洋の存在も把握されていない時期に、本書のテーマである「ヴァルトゼーミューラー世界図」が登場してきます。そして、未だに多くの疑惑を抱えるアメリゴ・ヴェスプッチも(著者はそれでも比較的好意的な視点で彼を描いています)。

本書のハイライトの筈なのですが、此処までのこってりとした長い道程を読んできた読者にとっては、意外にもあっさりした内容と捉えられるかもしれません。そして、当時の政界の中心であったイタリアでもなく、航海の拠点であったポルトガルやスペインでもない、未だ後進国と見做されるドイツでこの地図が描かれた事に奇妙な感覚を持たれるかもしれません。ですが、そこには本書の一貫したテーマを汲み取る事が出来ます。ジェノバにとって新たな世界を示す手法としてのプトレマイオスが求められたように、後進のドイツにとっても、ローマ帝国の伝統を継承し、ドイツ中心主義となった神聖ローマ帝国の新たな世界観を示すための表現方法が求められていた事、それは旧来のキリスト教世界観を継承しながらも、新しい世界をも同時に示すことで初めて達成できると考えた事を、著者はこのパートのもう一人の主人公である「ヴァルトゼーミューラー世界図」と併せて刊行された解説書でもある「天地学入門」の著者でもあり、この地図の発刊に主たる役割を果たしたであろう、リングマンに仮託して語っていきます。

ここで歴史的に見て面白いのは、彼らがドイツという、グーテンベルグを生んだ土地で当時漸く普及が進んだ印刷技術を以て、その思想の浸透を図る事を当初から念頭に置いていた点。「ヴァルトゼーミューラー世界図」も当時としては多い1000部も刷られた地図なのですが、このような印刷物を通してヨーロッパ全体で爆発的にあらゆる知識の普及が広まっていったことを著者は指摘しています。そして、その恩恵に浴した人の中にはあのコロンブスも含まれている事、彼がポルトガルやスペインの宮廷でパトロン達を説得するに当たっての知識的素地を印刷物の普及によって安価に入手できるようになった各種の書籍に寄っていた点を指摘し、その結果、大西洋横断(正確には西回りのインド行き)のチャンスを得たとする、一連の著述は出色です。

リングマンの情熱とその思想、ヴァルトゼーミューラーの創意工夫の結果として生まれた「ヴァルトゼーミューラー世界図」の特徴を、著者はその仮託の検証として詳細に述べていきます。そして、新たな大地にアメリカと名付けられた理由、更には最も重要な点、その大地を「第四の大陸」として描いた理由と、その後ヴァルトゼーミューラーが取り下げた原因についても検討を加えていきます。本書を手に取られた方が最も気にされる個所かと思いますが、唐突でいささか淡泊な内容に終始しますので、その結論に拍子抜けされてしまうかもしれません。逆に、最後のコペルニクスへ繋がる物語は、その地図の偉大さを示すために用意されたストーリーのようですが、あっさりとした前述の内容と比較すると、少々虚飾気味であったりもします。

冒頭で著者が述べているように、本来の「ヴァルトゼーミューラー世界図」の経緯を述べるだけであれば、これほどの大著にならなかったはず。本書が語る物語は、その地図単体が導き出すストーリーを大きく離れて、地図の製作そのものが持つ目的、その変遷を示す事でキリスト教(ローマカトリック)世界観の変遷を紐解こうという、壮大なテーマに挑んだ一冊です。そして、その世界観の帰結を示す証拠の品は、今はうやうやしくアメリカ議会図書館に最高の額装を以て掲げられているそうです。その新世界、神に約束された地に到達した証として。

<おまけ>

本ページより、本書に関連するテーマ、書籍のご紹介。

第四の大陸と類書

 

今月の読本「オン・ザ・マップ 地図と人類の物語」(サイモン・ガーフィールド:著 黒川由美:訳 太田出版)マッパ・ムンディから広がる、地図という名の人々の物語達を

今月の読本「オン・ザ・マップ 地図と人類の物語」(サイモン・ガーフィールド:著 黒川由美:訳 太田出版)マッパ・ムンディから広がる、地図という名の人々の物語達を

地図を見るのは好きですか。

美しい色彩の地図の中で旅をする。見た事もない土地に想いを馳せ、道のりにワクワクする。複雑な地形に感嘆し、雄大な山並みや広大な平原に圧倒される。

地図を眺める事そのものが旅をしているかのような錯覚を受ける事もあるかもしれません。その時、ご覧になっている地図を作った人達の想いに、ほんの少し触れているのかもしれません。

全ての地図は、誰かが何かの為に作るもの。今回は、歴史上、営々と作られ続けたそんな地図の物語を怒涛の如く詰め込んだ一冊をご紹介します。

オン・ザ・マップオン・ザ・マップ 地図と人類の物語」(サイモン・ガーフィールド:著 黒川由美:訳)です。

著者はイギリス在住のジャーナリスト、作家の方で、地図の歴史に関する専門家でも、地理学の研究者でもありません。従って、読者の方がちょっとだけ緊張するかもしれない、難解な図法のお話は殆ど出て来ません(メルカトルの紹介の部分で、比較として扱われるだけです)。

総ページ数418ページ。図表100点以上という、大ボリュームで地図にまつわるあらゆる物語を、それこそ絨毯爆撃のように語っていきます。そこに は、訳本ならではの共通する知的教養を下敷きに展開する、著者と読者との知的好奇心のせめぎ合いが展開していきます。訳者の手により丁寧で優しい文体に均されてはいますが、この広大に広がる地図にまつわる物語達についていけるか、楽しめるかはひとえ に読者の好奇心の広さとその基盤にかかっています。

本書では全時代の世界を股にかけた広範な物語が描かれていきますが、一方で、英国基準で描かれる訳本ゆえの限界もあります。従って、本書から日本での事例や雰囲気を味わうことは全く出来ない事も、併せて述べておく必要があるかと思います(言及としては、僅かに3か所。ロンドン在住のタイポグラフィックデザイナー河野英一が、ロンドン地下鉄の路線図を使って遊んだ「書体の路線図」(本書で登場する唯一の日本人)。慣性航法型とGPS型のカーナビがいずれも日本で実用化された事と、Googleストリートビューの取材車がsubaruである事)。そのため、地図は大好きでも、ヨーロッパの地理や歴史に興味が無い方にとっては少々つまらない一冊になってしまうかもしれません。

そして、本書の特徴は地図の歴史を描く以上、プトレマイオスの「ゲアグラフィア」から物語をスタートさせますが、流石に英国人らしく、もっと別の地図を物語の中核に置いていきます。ヘレフォード大聖堂に収められる「マッパ・ムンディ」です。

この、方位も地形もあいまいな地図。しかしながら、非常に微細に描かれた建物、珍妙な動物たち、そして、びっしりと書き込まれる道程と地勢の解説文(もちろん内容は大幅に歪んでいます)。この地図こそ、旅をするための道筋を辿るもの。地図の図法も、描画方法も、記述もすべて本来は旅をする人の便の為に作られたことを、またはその地図を眺めながら旅程に想いを馳せるために作られることを明快に表してるようかのようです。

本書はこの「マッパ・ムンディ」の数奇な物語を起点として、西洋における地図に纏わる物語を紐解いていきます。ただ、何せ22ものストーリーと、ポケットマップと称される15本のコラムが山脈の如く連なっていますので、本書の全容を一気にご紹介することは少々難しいところです。

まだ世界を描き切れていなかった頃の物語と、幻の土地たち。そして、その幻の土地を描くために格闘した人々と、そのれにまつわる、現代まで続く極めて人間臭い物語(アメリゴの売名行為に始まって、世界最大の地図帳の記録更新(但し、使い物にならないとのギネスの烙印付き)、ヴィンランドが描かれた地図の真贋やアンティーク地図取引と盗品売買)。人の欲望と疑念渦巻く幻の地図たち(宝島や幻の山々、南極点への地図、更にはモノポリーやリスクといったゲーム中のマップ)。多くの人々に愛されるようになった地図たちの作成者の想い(ロンドンAtoZに旅行ガイド、芸術品となった大型地球儀)。そして、地図を通して事実を表していく大切さ、難しさ(メルカトルが開いた「アトラス」への道程。三角図法とシティマップの作成。その上に展開させたコレラの感染地図)。中には、女性がなぜ地図を読めないかという問題とカーナビの普及に関する論考などという、皆さんが興味津々となるテーマも扱われています。

地図によって物語が広がり、地図によって人々は旅の足掛かりを得て、そして地図の中を旅していく。本書の巻末まで読み進めていくと、その旅路は紙の地図はおろか地球をも飛び出して、火星の運河から火星人の話、ネバーランドの地図、ゲーム中のバーチャルマップを旅する想い、更にはそれらを想い描いていく人の脳内マップまで突き進んでいきます(この辺りの著者の興味の広さは、流石に訳本ならでは)。

人類の歴史と同じくらいの長さを有する、人が自らの場所を示し、旅する想いを描き続けた地図という名の物語は、カーナビとデジタルマップの普及により、そのような自らの力で探し当てるという行為自身が無くなってしまうのではないかという、著者の若干の危惧を添えながらも、その地図の中を旅する人々と共に、今も果てしなく広がり続けているようです。

<おまけ>

本ページで扱っている、地図にまつわる本や、関連するテーマの本、訳本のご紹介を。

「日本の凸凹」とコンビニで山っぷ(赤色立体地図は凄い)

「日本の凸凹」とコンビニで山っぷ(赤色立体地図は凄い)

New!2018.6.7:地図ファンの方にはお馴染みの国土地理院がサービスを提供している「地理院地図」6/6付で基盤地図情報10mメッシュを使用したデータが同サイトから利用できるようになりました。

諏訪湖から中央構造線の東西方向。

メニューから色々な陰影処理が選べます。

尖石縄文考古館付近と大泉山。

遺跡は台地の上なのですが、意外と川筋に降り易い場所に位置している事が判ります。

もっと判り易い例。井戸尻遺跡。地名の通り、釜無川に下る谷筋が廻り込んだ縁にある湿地帯の上に遺跡が広がっています。屈曲している場所の小字名はずばり「池袋」です。

同じ地図を3D化して表示した物(陰影図と赤色立体地図、そして地理院地図の3つを合成して3Dに落としています、標高強調1.4倍)。井戸尻遺跡の場所は、水の便もあり、七里岩の断崖上の台地から、往来がある釜無川筋に下るのに最適(人が歩く場合)な場所でもあります。

その表現力が気軽に楽しめる嬉しい対応。

色々な見方を発見してみたいですね。

ちなみに、某IT系Web記事で「最近ブラタモリで使われる頻度が云々」との記述が上がっていますが、地理ファンの方なら当然ご承知でしょうが、ご本人からのコメントをどうぞ。

千葉先生は全盛期のザベ(The Basic)に連載持っていた程の方ですから…ね。

 

New!2017.3.27:新年度を目前に控えてリリースが発表されました。今まで、一部の事例に限り公開されていた赤色立体地図ですが、多くの地形、地図表示ソフトの頻繁なバージョンアップ、機能向上と歩調を合わせるように、4/1から国土地理院発行基盤地図情報10mメッシュを使用した、赤色立体地図のデータを無料公開することになったようです。

3/31から稼働開始予定のデータ提供サイトは、リンク先として紹介される「赤色立体地図」公式ホームページ(現在、トップの解説ページのみ先行テスト公開中)になります。

ダウンロードした赤色立体地図の一例(実際には9000x6000pixelのTIFFですが、大きすぎるのでサイズダウン)。元データは全国地図からのメッシュマップになっています。

お約束の富士山と青木ヶ原樹海の火口群たち(等倍から表示用に縮小)

私のホームである、八ヶ岳南麓をその特徴的な姿が実に美しい網笠山をトップに据えて。稜線の突端に出来た観音平の平坦な地形や、台地を削り込む川の流れがとてもよく判りますね。うーん路線図や水路を載せてみたい!(RRIM10_2016使用許諾に基づく掲載 : 「赤色立体地図 (c)アジア航測株式会社」 “Red Relief Image Map by Asia Air Survey Co., Ltd.”)

皆様も是非、ご自身でダウンロードして、その鮮やかな表現力をフルサイズで体感してみてください。

 

New!2017.3.2:赤色立体地図の公式ガイドページが公開されました。多くのサンプルが実際に操作できるようになっています。以下にあります千葉先生のtwitterにあるリンク先から閲覧可能です。

New!2017.2.6:千葉先生が主催されているBBS「ある火山学者のひとりごと」最近はアクティビティが低下しているようですが、昨日こんなデータが掲載されていました(私のtwitterから)。

ご興味のある方は、BBSの方をお読みになってご利用ください。

New!2016.12.29:エンジニアリング関係で興味深い連載記事を掲載し続ける、日本IBMのデジタル広報「mugendai」。今月の記事に、赤色立体地図と千葉先生の経歴に関するインタビュー記事が掲載されてます。ちょっと作為的かなと思わせる表現もありますが、PC関係にご興味のある方にも、興味深い内容になっていると思います。

New!2016.10.1:絶賛放送中のNHKテレビ「ブラタモリ」。放送50回を迎えた10月は再び3週間に渡って富士山が特集される事になりました。中でも10/15,22の2週に渡って放映される「樹海」シリーズに本ページでもご紹介している千葉先生が遂に登場することが決定しました!(何やら怪しい登場シーンが用意されているみたいですね)。また、今回の放送に連動して、千葉先生自らが下北沢でパブリックビューイングを開催される事が案内されています。

今のところ、Facebookからのエントリーしか受け付けていないのですが、ご興味のある方は(土曜日の夜ですので社会人の方でも大丈夫)、ご確認いただければと思います。

Facebookのイベントエントリーアドレスはこちらです。

 

New!2016.6.29:この夏、富士山麓の複数の施設で赤色立体地図展示が催されます。開催場所の詳細は製作者、千葉達郎先生のオフィシャルfacebook「赤色立体地図工房」で順次紹介されるそうです。

New!2016.4.18:この度の熊本地震で発生した、阿蘇大橋崩落現場を4/16に空中撮影及びレーザー計測した結果に基づく、赤色立体地図が緊急公開されました。アジア航測のホームページ、災害情報からご覧いただけます。速やかな沈静と復旧を願って。

New!2015.10.30:本日付の朝日新聞出版社のWebマガジン「dot.」に赤色立体地図の発明者でもある、千葉先生のインタビュー記事が掲載されています。ブラタモリをご覧になって「例の地図」にご興味を持たれた方は、是非ご一読を。

記事の中で語られている、樹海の調査と赤色立体地図のお話は、千葉先生が主宰する掲示板「ある火山学者のひとりごと」の投稿No.19759にリンク(PDF)が掲載されています。

New!2015.10.13:先週から始まったNHKのブラタモリ、シリーズ富士山(全3回)。初回のシーンでナレーションでも「例の地図」と呼ばれ、番組のイメージをリードする地図となった赤色立体地図。今回のシリーズで静岡大学の小山先生が持っていた地図、実は過去に風呂敷として限定配布されていた一品なのです。

本地図の発明者であり、製作者でもあるアジア航測の千葉先生からも、以下のように紹介されています。

どちらにしようか迷っているうちに、購入するチャンスを逸した愚か者なのですが、これを機会に再版してもらえないかなぁ、等と妄想中(下の方に張ってあるポスターの写真は、残念ながら海底地形データが入っていないのです)。

…等と呟いていたら、公式様よりコンビニで山っぷで販売開始のアナウンスが出ました!全国のコピー機が設置されているセブンイレブンでダウンロードできます(予約Noは12203511です)。詳しくはこちらの公式サイトをご覧ください(2015.12.2追記)

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New!2015.5.27:先般のNHK、クローズアップ現代でもバックに映っていた、赤色立体地図展でも展示されている箱根の赤色立体地図(国土地理院基盤地図5mメッシュ標高データ使用)がコンビニで山っぷでも購入できるようになりました!全国のコピー機が設置されているセブンイレブンで出力する事が出来ます(コピー機での出力になりますので用紙はA3サイズです)。

New!2015.5.17:現在開催中の赤色立体地図展の様子をご紹介します、ページ末尾へ。

 

<本文此処から>

山を巡られたり、旅がお好きな方の中には地図がお好きな方も多いのではないでしょうか。

地図の上で旅行した軌跡をなぞったり、これから登ろうとする山の風景に思いを馳せたり…地図とは想像力と想い出を膨らませてくれる素敵な出版物です。

かくいう私も小さいころから地図は大好き。大きな書店には必ずある国土地理院の1/25000地形図が入った図庫を何度も引き出しては楽しんでいたものです。

社会人になって小型船舶の免許を取得した時に何よりも楽しかったのは「海図」の講義でした。

地上の地形図にはない色とりどりの標識記号、海上に引かれる航路表示、道なき海道を導いてくれる灯台、そして沈船…。

海図を見ながら余りにも喜んでいる私のために、誕生日プレゼントとして東京湾(浦賀水道)の詳細海図と港則+海図説明ポスターを贈られたこともあります(もはや変態さんです)。

そんな地図好きにとって衝撃的だったのが2006年に技術評論社から出版された「赤色立体地図で見る日本の凸凹」と、その発明者であるアジア航測の千葉達郎先生だったのです。

千葉先生は以前から主宰されている「ある火山学者のひとりごと」という掲示板で存じ上げていたのでしたが、本書の発表前後から各種マスコミでも取り扱われるようになった「赤色立体地図」の表現力の凄さには、地図好きとしてただただ感服の至りなのです。

実際の凄さは本書をご覧いただきたいと思いますが、とにかく方向性を持たずに立体感を与えるこの表現手法は地形理解を大幅に助けるだけではなく、その描画方法がデジタルデータと極めて親和性が高いという点でも、今もっとも「モダン」な地図と言えるかと思います。

そんなモダンな表現方法である赤色立体地図と古典と言っても良い国土地理院の地形図のコラボレーションが『スカイビュースケープ「山っぷ」』でしょうか。

日本の凹凸と山っぷ何時もの見慣れた国土地理院の1/25000地形図も、赤色立体地図化することで、ご覧の通り鮮やかな地形の立体感が得られています【クリックでフルサイズ】。

ちなみに左のMapが霧ヶ峰と八島湿原、右のMapは霧ヶ峰の東側にあたる蓼科山と横岳です(写真の日本の凸凹は初版本です、現在の版は東日本震災を受けて活断層などが大幅加筆されており、赤い表紙になっています)。

霧ヶ峰から西側に急激に下っていく様子と山頂付近の穏やかな草原地形、白樺湖に下って東に向かうと、綺麗な円錐をかたどる諏訪富士こと蓼科山とその南東にまるで押しつぶしたような横岳の威容もはっきり判ります。

これまで、電子ファイルでの提供だった『スカイビュースケープ「山っぷ」』なのですが、先月から何とコンビニ(セブンイレブン)店頭のネットプリントでも「山っぷ」が入手できるようになったのです。(千葉先生自らが案内する購入ガイドの動画はこちらより【追記2013.9.22】)

デジタルプリント代はA3版で280円と、通常の1/25000地形図が270円ですので10円高く、印字面積も狭いのでちょっと考えてしまう所ですが、地図好きとしては赤色立体地図が手軽に入手できることを素直に喜びたい(というか、既に悦に入っています)です。

入手以来、ドライブand写真撮影ポイント確認用に大活躍なのですが、地形が捉えやすいので登山Mapの補助としても便利かもしれませんね。

もちろん、地形学習用としては学校の教材としても(通常の地図や航空写真と比較させるなど)色々活用できそうです。

現在のラインナップは100名山のみですが、データさえ揃って来れば色々なパターンが出てきそうなので、楽しみながらちょっとずつ集めて行こうと思います(先ずは美ヶ原と八ヶ岳を集めたうえで、周囲に広げていこうかと)。

赤色立体地形図八ヶ岳周辺2と、いう訳で八ヶ岳を追加した後です【クリックでフルサイズ】。これを見て頂くと、八ヶ岳に登るのになぜ、美濃戸からアプローチするのが一般的なのかがものすごくよく判ると思います(標高をあまり稼がずに喉元まで迫れます)。また、立場川の渓谷の深さや編笠山の美しい円錐も楽しめますね。

ただ、困ったことに麦草峠付近から硫黄岳までが欠けてしまいます。国土地理院の1/25000地形図で補完しても良いのですが、ちょっと悔しいですね。後は美ヶ原を買いたいのですが、こちらはもっと離れててしまいそう…。

何処かで八ヶ岳フルセット、製作して頂けませんでしょうか(結構需要あると思いますよ)。

赤色立体地形図4枚セットこちらが美ヶ原を加えた八ヶ岳連峰4枚セット。地形の違いのバリエーションが判りますでしょうか。

赤色立体地形図美ヶ原アップ美ヶ原近辺をアップで【クリックでフルサイズ】

ビーナスライン終点の名物、落合大橋より先の急峻な谷筋にへばりついて一気に標高を稼ぐヘアピンカーブの繰り返しと、それを乗り越えた先の広々とした平原のコントラストも赤色立体地形図だとばっちり判ります。

コンビニで山っぷ桜島鹿児島を会場に現在開催中の国際火山学地球内部化学協会2013年学術総会 (IAVCEI 2013)を記念して発売された桜島の赤色立体地形図です。

溶岩の流れ出している場所とそうでない場所で土地の利用状態がはっきり分かれているのが判ります。このような大縮尺で適用して地形図から生活環境を把握するのにも有効ですね(2013.7.22追記)

赤色立体地図展1現在、新百合ヶ丘にある、アジア航測本社が入っているビル(新百合21ビル)のギャラリーエリアで赤色立体地図の展示会が開かれています。ちょっと寄り道して様子を見てきました。

W赤色立体地図展3今回最大の見物。軸装された、西ノ島の拡大の推移を見せる掛け軸。

インクジェットっぽいプリントアウトの質が今一歩なのがちょっと残念ですが、むしろ雰囲気が出ていて、いいのかもしれません。

赤色立体地図展3この間のブラタモリで紹介されていた、鎌倉の赤色立体地図。

大サイズで見ると、海岸線の奥側の標高が低くなる、砂丘地形の雰囲気が良く判ります。

赤色立体地図展5関東平野全体を表す、赤色立体地図。時には俯瞰でなければ判らない事もあります。

赤色立体地図展2もう一か所の展示スペース。

赤色立体地図展6赤色立体地図の表現方法を解説したポスター。

赤色立体地図展7多摩地域の地形を赤色立体地図で表したポスター。

自分たちが住んでいる場所をこうして観る事で、新たな視点が生まれるかもしれません。

赤色立体地図展9箱根そして、今回の大物。今ホットな箱根の赤色立体地図。中央火口丘の複雑な火口群と、この表現法特有のべっとりとした溶岩の表現がよく判ります。

是非、実物をご覧頂いて、その表現力の凄さを味わって頂ければと思います。そして、ここが火山である事の事実をしっかりと理解したいところです。

展示は5/29まで。新百合ヶ丘駅北口を出て左手すぐ、新百合21ビルのエントランスです(オープンスペースです)。

<おまけ>

赤色立体地図は色々な分野で応用されているようです。Web上で見つけたほんの数例を

<おまけの2>

コンビニプリントの地図サービスには前述の赤色立体地形図以外にもこんなサービスもあります。

八ヶ岳鳥瞰図鳥瞰図のプリントです【クリックでフルサイズ】

こちらはジェオさんの提供による有名な山々や都市の鳥瞰図をプリントできるサービスです。

価格は赤色立体地形図と同じ280円/枚という所が微妙すぎますが…まあ、これもお楽しみの一環という事で(清里中心の鳥瞰図です、西麓バージョンもサンプルでは見た事あるんだけど、サービスには入っていなです2013.8.12追記)

<おまけの3>

ライバル登場!という訳ではないのですが、本家国土地理院の1/25000の地形図がこの度、フルモデルチェンジを果たすそうです。こちらの国土地理院のページにサンプルイメージ画像を含めたプレスリリースが上がっていますが、奥多摩の地形図には等高線に合わせて見事な陰影がつけられています。一見するとコンビニで山っぷと同等か、それ以上のクオリティ…。研究者向けはともかくとして、民間向けでは地形を効果的に表す手法としての赤色立体地形図もうかうかしていられないようですね(2013.9.7追記)