北アルプスにまつわる自然と人の営みを集めて(大町山岳博物館と4つの分野を跨ぐ特徴的な展示を)

北アルプスにまつわる自然と人の営みを集めて(大町山岳博物館と4つの分野を跨ぐ特徴的な展示を)

New(2015.9.13):本年夏から展示を開始したスバールバルライチョウ飼育舎のご紹介を追加しました。

New(2015.5.26):2004年を最後に飼育を中断していたライチョウの再飼育に向けて、近縁種であるスバールバルライチョウの飼育に着手するため、新たな飼育舎の建設が進んでいます。6月14日には完成披露を兼ねた企画展が予定されています。既に、上野動物園と富山ファミリーパークは次のステップでもあるライチョウの人工飼育に着手することが決定していますが、大町山岳博物館も新たな挑戦が始まるようです。本展示の詳しい内容については、現在開催中の特別展「山博にライチョウがやってくる!山博「ライチョウの里」へ再出発」の企画展ページをご確認ください。

お天気のすぐれないお休みの日。

塩尻まで足を延ばした序に、何時かは行こうと考えていた場所まで更に足を延ばしてみます。

大町山岳博物館外観信濃大町の街を見下ろす山裾に位置する市営の博物館「大町山岳博物館」です。

大町山岳博物館玄関正面玄関には、この博物館のシンボルでもあるニホンカモシカ親子のブロンズ像が据えられています。

美しい木目パネルがはめ込まれた玄関と、落ち着いた外観が印象的なコントラストを見せています。

大町山岳博物館館内1館内は撮影禁止ではありませんでしたので、差し障りのない範囲で。

タペストリー調のメッセージが要所に掲げられています。

大町山岳博物館エレベーター館内のエレベーターはこんな感じで可愛いイラストで彩られています。

館内の順路は、なんといきなり最上階ヘ上がれとの事で、3階に上がります。

大町山岳博物館3階展望台3階はこの博物館のハイライト。北アルプスを一望できる大展望台へとご案内です。

足元には空中撮影した大町と北アルプスの地形が飾られています。

大町山岳博物館3階展望台2展望台の窓には、こちらのようにカメラ用ののぞき窓も用意されています。天気が良ければ、北アルプスの素晴らしいパノラマが約束されているのですが、今日は残念ながら霞んでしまっています。

大町山岳博物館3階展望台と岩石標本そして、こちらが「博物館」であることを雄弁と物語る第一の展示物、北アルプスの大パノラマとして見学者を迎えてくれる峰々で採取された岩石見本が揃えられています。

眺めるだけではなく、山を肌で感じて欲しいとの展示者の想いが伝わってきます。

大町山岳博物館2階岩石標本1その想いは、2階の展示スペースに移るとよりいっそう明確になります。

北アルプスの成り立ちを解説するスペースに展示されている岩石標本たちは、写真撮影どころか「触ってみてください」のプレートが出ているのです。

屋内展示で、こんなオープンな博物館。そんなに多くは無い筈です。

大町山岳博物館2階岩石標本2こちらは中央構造線の解説パネルと岩石標本。こんな場所で、よもやの「白州おしかぶせ断層(地元です)」にお目にかかるとは思いもよりませんでした。こちらの標本ももちろん触ることが出来ます(化石標本すら触って良いのです)。

大町山岳博物館2階岩石標本3メタセコイヤの炭化化石。年輪や炭化した断面をじっくり触らせて頂きました。

大町山岳博物館玄関のはく製この展示者の想いは、地学から次は生物学に移っていきます。

玄関に飾られているはく製。本物のニホンザルとタヌキのはく製に「触ってみてください」と訴えかけています。この後に展示されている展示物への想いを込めて。

大町山岳博物館2階はく製展示12階のメイン展示スペースを占める、野生動物のはく製たち。苦手な方には大変申し訳ないのですが、この博物館の二つ目のポイントは「本物のはく製」で展示している事です。

玄関に飾られているはく製の解説文章にあるように、ここに飾られているはく製たちは不幸にして病気や死亡した野生動物たちを集めてはく製にしたものです。本物に限りなく近い展示物といえるでしょう。

大町山岳博物館2階はく製展示3この博物館のシンボルでもある、ニホンカモシカのはく製。シカとカモシカの違いについて、詳細に解説されています。どちらも同じように見えますが、生態から、そもそも種まで違う事をこの展示で理解して頂けるはずです。

大町山岳博物館付属園のカモシカ博物館の裏手にある付属園では、実際に保護されているニホンカモシカを観ることが出来ます。

更に裏側にはカモシカの生態に合わせて、山腹の急傾斜を利用したゲージも用意されています(実は、このゲージ自体も凄いのです。写真失念…)。

大町山岳博物館2階はく製展示2野生動物のはく製たち。こちらは標高別に飾られており、生態が把握できるように配慮されています。

大町山岳博物館2階はく製展示4水辺の生物のはく製たち。水辺の種類ごとに展示されています。

動物、鳥のはく製は本物なのですが、それ以外はプラスチック製なので落差が…。

大町山岳博物館2階ライチョウ展示1そして、この博物館の三つ目の特徴。はく製コーナー奥の一画にある。ここにしかないであろう、ライチョウの生態解説展示です。

この博物館の来歴をご存知の方なら、なぜ独立したライチョウの展示が行われているのかご存じかと思います。この博物館の付属施設では2004年まで低地でのライチョウの飼育と繁殖が試みられていましたが、残念ながら「継続的な」繁殖には至らず(2015.7.4:記述修正。実際には1886年に5世代目の誕生まで辿り着いたが、その後継続できず)、現在では中止されています。

大町山岳博物館2階ライチョウ展示2そんな苦い過去を持つ、この博物館。その学術的研究の成果の一端がこのような形で展示されています。

しかしながら、各種の報道でご存知かと思いますが、近縁種であるスバールバルライチョウを用いた飼育技術の試行が既に行われており、近い将来再びライチョウの人工ふ化に挑戦する機会が訪れるかもしれません。

大町山岳博物館2階ライチョウ展示3何時か、こんなシーンが当たり前の風景となる事を祈って。この研究には本館以外にも、他の動物園も参加しています。

大町山岳博物館1階山岳展示1触って感じる地質学。実物のはく製が本物の自然に迫り、失わる寸前に辛うじて留まるライチョウの展示が危機を訴える。規模の小さな博物館とは思えない充実の展示物の最後を飾るのは、1階に広がる、この館の表題を表す、登山の歴史を伝えるコーナー。入り口では時代ごとの登山装備が迎えてくれます。

大町山岳博物館1階山岳展示2展示されているのは登山だけではありません。山の暮らしに関わる品々が豊富に展示されています。

雑然とした民俗館と違って、映像を含めて視覚的に訴えてくるような展示を心掛けているようです。

大町山岳博物館1階山岳展示3メインの展示の一つである、信州と越中の峠越しの交流の歴史を紹介するコーナー。古文書や図録が豊富に展示されています。

大町山岳博物館1階山岳展示4昔の山人達が使った狩猟道具。貴重な当時のテグスや毛ばり、カモシカの毛皮で作った道具なども展示されています。

大町山岳博物館1階山岳展示5山小屋での語りを再現した、民俗博物館ではおなじみの展示もあります(笑)。

大町山岳博物館1階山岳展示6鳩便用箋戦前、山小屋での連絡に使われた鳩便用箋と鳩箱。

発信元や、緊急便の指定など、当時を物語る貴重な収蔵品も展示されています。

あ、近代の登山に関する展示もあるのですが、全くの素人なので…。ご興味のある方は是非ご自身の目で確かめてください。

大町山岳博物館前庭より北アルプス夕方になってようやく晴れてきた博物館の前庭より、大町の市街と北アルプスの山々を。

大町山岳博物館資料一地方都市の博物館としては、規模の割にはあまりにも豊富な展示分野を包括する大町山岳博物館。

ちょっとテーマを絞りきれない感もありますが、いずれの分野にも興味がある方(含む自分…)には、大満足の展示ではないでしょうか。

信州の一大観光地でもある安曇野からは少し離れますが、信濃大町の市街からはすぐの場所ですので、白馬方面や黒部アルペンルートにお越しの際にはちょっと寄ってみるのも良いかもしれませんね。

<ここから2015年9月13日の追加分です>

大町山岳博物館付属園正面博物館の裏山に広がる付属園。こちらで本年(2015年)から、ライチョウの再飼育、繁殖を目指した事前準備としての、近縁種スバールバルライチョウの飼育が開始されました。

大町山岳博物館付属園園内案内板付属園正面の解説板。

入り口前の最も良い場所にライチョウ舎が建てられました。

大町山岳博物館付属園新ライチョウ舎全景ライチョウ舎の全景。全部で3つの建物(実際には管理棟も新設されたので4棟)が新設されました。

アクリル?製の透明な窓越しに観察できますが、窓の正面にはロープと、日差しが直接飼育舎に入り込む事を防ぐためにテントが設けられています(脅かさないようにとの注意書きも)。

大町山岳博物館付属園スバールバルライチョウ展示実際の展示風景。このような形で窓越しに観察できます。

コンクリートの壁に空いている穴の向こう側が空調付きの飼育舎に繋がっているようです。

ゲージではなく、コンクリート打ち放しの環境での飼育は、以前のニホンライチョウ飼育時から変わっていないようです。

じっと見つめてしまうと、時々、穴の方に帰って行ってしまいます。

大町山岳博物館付属園スバールバルライチョウ説明板1スバールバルライチョウの解説板。

大町山岳博物館付属園スバールバルライチョウ説明板2飼育の経緯に関する解説板(画像をクリックすると、拡大表示になります)。

上野動物園での初年度の繁殖に向けた飼育は残念ながら実を結びませんでしたが、決して興業でも場当たり的な活動でもなく、このように国を挙げての活動の一端として行われている物です。

その中で、最も長い飼育経験を有し、5世代に渡る繁殖に成功した本館の知見は大変貴重なもの。残念ながら2004年を最後に飼育を中断していますが、今回のスバールバルライチョウ飼育を契機に、きっと次のステップ、ニホンライチョウの低地での繁殖、そしてその先の目標である自然環境への帰還まで実を結ぶと信じて。

スバールバルライチョウ1スバールバルライチョウ2スバールバルライチョウ3スバールバルライチョウ4既に3棟ある飼育舎の全てにスバールバルライチョウが入っている状態です。

いずれ、この飼育舎にニホンライチョウが、そしてこの地で繁殖したペアが飼育されることを強く願って。

 

 

<おまけ>

本ページでご扱っている、類似のテーマもちょっとご紹介します。

 

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諏訪に生き、色彩をデッサンし光を刻み込んだ「描き続ける人」を(安曇野市豊科近代美術館と生誕120年・宮芳平展)

諏訪に生き、色彩をデッサンし光を刻み込んだ「描き続ける人」を(安曇野市豊科近代美術館と生誕120年・宮芳平展)

New!(2014.12.14):この夏、NHK教育テレビで放送される「日曜美術館」で紹介された宮芳平。例年お馴染みの年末アンコール放送で再度、取り上げられることになりました。放送は12/21(日)午前8時より。未見の方は、是非ご覧頂ければと思います(下記の通りで、私も未見です)。

夏休み。毎年のように出かける日本海に向かう途中、何時も安曇野を通過するのですが何故か素通り。

写真撮りとしては、盛夏の褪せてくすんだ夏空では北アルプスの山は映えず、一面に広がる水田も黄金色に輝く田圃にはまだ早いため、夏の安曇野にはあまり惹かれるところがないのが実情だったりします(避暑なら、こちらの方が標高高いので…)。

そんな中、ふと舞い込んできた豊科近代美術館で特別展が開催されているという案内。よくみると、忘れかけていた、昨年のNHK日曜美術館のアートシーン(開催中の展覧会案内を放映する番組内のコーナー)で衝撃を受けた、生誕120年を記念して全国を廻っていた宮芳平展の凱旋展示が行われているという案内でした。

昨年NHKで紹介があった際には、既に茅野での展示は終了。練馬での展示に移っていたために観に行く事が出来ず、安曇野に戻ってきたら行きたいなと思っていながら、すっかり忘れていた中、ちょっと驚きを(忘却気質に呆れて)もって、案内を見ていました。

更に今年の8月には、NHK日曜美術館の本編で展示が紹介されたという(再放送含めて完全に見忘れたという、痛恨のおまけつき)事に気が付いてしまった以上、行くしかないと腹をくくって、糸魚川に抜ける途中にちょっと寄り道を。

安曇野市豊科近代美術館と宮芳平展北アルプスをバックに建つ、安曇野市豊科近代美術館。正面はこじんまりとしていますが、建屋の右側が本来の展示スペース。南欧風の軽やかなデザインと色使いが特徴的な建物ですが、中庭を含めて各所に配されたこの美術館のもう一つの主要展示品である高田博厚のブロンズ像が、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

宮芳平展パンフレット入館時に頂けるパンフレットを。

館内は全面撮影禁止ですので、残念ながら展示の模様を写真でお伝えすることはできません。

文章で雰囲気がお伝えできるかどうか…。

展示は2階の全スペースと1階の一部を用いて行われていますが、1階に関しては通常非公開の作品(キャンバスにヒビが入り始めてしまっている作品を含む)を今回特別に展示しています。

メインの展示は2階となりますが、10畳ちょっとの各展示室と展示室を繋ぐ廊下、メインの大展示室、多目的交流ホールの全てを使って、全246作品(その他、参考出展もあり)という、非常に多数の作品が揃えられており、画家の全画業を追いかけながら見る事が出来る、極めて贅沢な展示内容となっています(おかげで、全ての作品を観るのに休憩なしで3時間ほどかかってしまいました。後の予定がちょっとピンチになったのは…)。

安曇野市豊科近代美術館館内案内館内展示室案内。グリーンのエリアで展示が行われています。一階には常設のアトリエ再現室もあります。

第5展示室から、大展示室、第8展示室をぐるっと一周することで、画学生時代から晩期までの画業を一覧することが出来るように配置されています。

第7展示室には初期のペン画と、もう一つの作品群でもあるエッチング。多目的ホールを挟んで、手前の廊下には自画像、そして出口までの廊下にはパステルを中心としたスケッチが展示されています。

展示作品の過半は本館に収蔵されている作品ですが、メインの大展示室に展示されている連作「聖地巡礼シリーズ」は新潟県近代美術館・万代島美術館に収蔵されていますし、第7展示室で展示されるエッチングはすべて練馬区立美術館の収蔵品。人気の高い、大正ロマンを感じさせるペン画は個人の方の所蔵品ですので、このような機会でないと一挙に見る事は出来ません。

特に、第6展示室から大展示室への廊下にかけて飾られている諏訪の景色を印象的に捉えた作品群は(一部は大展示室内)、地元の高校や私営施設、団体で収蔵しているので、通常観るチャンスは全くなく、このような機会でなければ決して見る事が出来ない作品も多数出展されています。

また、各所に配され、特に第6展示室に集中して掲示されている文集「AYUMI」その他から採られた言葉達は、森鴎外をして可愛がらせた程、極端に一本気でちょっと神経質、でも優しさの溢れる画家の想いが文章からも見て取れるようです。

作品の論評に関しては、美術的能力が欠落している(墨筆を含めて、デッサンや模写が全く出来ないという致命傷)人間なので避けますが、印象だけは語らせて頂こうかと思います。

謂われているように、大正ロマンを感じさせる、最も有名な作品のひとつ「椿」にあるように、点描から始まっている画業(第5展示室)は、厚いタッチを持った油彩(廊下に飾られる「砂丘(平塚)」の波を打つような砂丘のタッチと寂寥とした海と空のうねりが印象的)へと変わっていきます。暗緑色が多かった初期の作品と比べると、諏訪時代の山野の風景は、空の鮮やかさと枯れた冬の寂寥感、更には土の息吹を感じさせる色彩が加えられていきます(第6展示室、氏の作品に興味を持った「諏訪湖(立石より)」や「茜さす山」、「荒土を耕す」)。この辺りの作品から、描画は筆のタッチをそのまま生かしたような抽象的な雰囲気になっており、更には代表作「母と子」にあるようなモザイク画を想わせる輪郭を描かない絵になっていきます。

茜さす山ポストカードより「茜さす山」(諏訪二葉高等学校所蔵)

荒土を耕すポストカードより「荒土を耕す」(ホテル鷲乃湯所蔵)。「諏訪湖(立石より)」と「八島」のポストカードが欠品で少しショックを受けています。美術館側もあまり商売気がないようですし、ポストカードも不思議なことに、美術館とは別名義の物が混ざっています

大展示室に並ぶ「聖地巡礼シリーズ」に至ると、遂に輪郭線は失われ、厚く塗られた油絵具がうねる様に心証を色彩に表すような抽象性。更には旅の機内で得たといわれている、白く輝く太陽の光を織り込んだ作品が目立つようになり、最後には重厚さを越えた、まるで溶岩のように厚く塗られた抽象画に至っています(第8展示室)。

特に後期、晩期の作品を観ていると、官能的にすら捉える事が難しいくらいの抽象性をもっているため素人目で観てしまうと「画力って何だろう」と複雑な想いを持ってしまうのですが、最後に展示される自画像達、そして別コーナーとして纏めて展示される初期のデッサンや、会場の出口へと誘うように飾られるパステルで描かれたスケッチの展示を観ればそのような疑問はすぐに氷解すると思います(そのように順路を並べられた、展示者の方の配慮でしょうか)。

圧倒的なデッサン力と正確な線描。初期の点描やエッチング作品に見られる非常に微細な書き込み。柔らかくも的確なパステルで描かれる諏訪の風景を切り取ったスケッチ。「聖地巡礼シリーズ」」の下絵に見られる的確なコンテの線描によるスケッチと、色指定と思われる謄写紙への輪郭とNoの指定。既に輪郭は失われ、厚く厚く塗り込まれた絵の具の色しか残っていないような絵も、すべては正確な観察力による的確なデッサンと下絵の上に構築されていると考えられます。

最後の展示室に飾られている画家の自画像はバックに溶け込むほどに輪郭はありませんが、まぎれもなく画家その人の今を正確に描きこんでいる。機内からの風景を描いた作品は厚塗りで何を描いているのか判らないようにも見えますが、観る人には機内の窓から遠く眺める地上の風景、光であることがハッキリ判る。遠く眺めていても絵の中に誘ってくれる。ハッとさせられるものがそこにある。

輪郭もあいまいで、遠近感も、縮尺も、縦横比も怪しい諏訪の山々、諏訪湖の湖畔の景色も、間違いなくそこである事が判る、その場に立った人間であれば納得できる印象を更に昇華させて描き込んでいる。その印象とは何なのか。

第6展示室に掲げがれている、画家自らの言葉に印象的に綴られているのですが、私の勝手な心象だけを申し上げると「色彩をデッサンすること、光をキャンバスに刻み込んでいく事」。圧倒的なデッサン力を以てしても叶えられない、光と色を捉え切ることに画業を積み重ねたのではないでしょうか。色すらも交わり込んでいく強烈に積み上げられた油絵具から発する複雑な陰影と、その表面を照らし出す光によって複雑に発するキャンバスからもたらされる心象。それはまるで、光をキャンバスに刻み込んで留めようとしているかにも思えてくるのです。光の陰影には色の境界も線画もなく、水墨画が和紙の白と墨跡自体の陰影を以て光の陰影を表すように。それは点描から始まった色と光への拘りが遂には渾然一体となった証。

絶筆となった「黒い太陽」にはまぎれもなく、画家の生涯に渡って築き上げてきた色彩がすべて備わっているように思えるのです。初期の作品で到達した暗緑色やコバルトブルー。諏訪の大地と空から心証を抜き出したかのような土くれ色と淡い蒼、そして緑。巡礼の旅がもたらしたオレンジ、黄色、そして白に至る太陽の輝きへと、それらの色は螺旋を描くように天上に昇っていく筆跡で描かれる。黒い太陽の秘密は、是非作品をご覧になられて感じて頂きたいのですが、そこには画業の全てが宿っているように思えたのでした。

どちらかというと薄幸ともいうべき画業だったのかもしれません。でもけっして一人ぼっちではない。厳しくも大らかな諏訪の大地と、多くの人に温かく見守られながらその画業の信念を貫き通した、彼の生き様に想いを馳せるところです。

安曇野市豊科近代美術館広々とした中庭の向こうに北アルプスの山々を望める、素晴らしいロケーションの安曇野市豊科近代美術館。

パンフレットにある「野の花のように」という優しくも凛とした印象というより、敬虔に、繊細に、かつ雄々しくも自らの描く心と向き合いながら、描き続けた方のように思えています。

また、じっくりと見に来たいと思います。

宮芳平のポストカードと蓼科山夕景お土産のポストカードと蓼科山の夕景の写真を眺めながら。

ポストカードと同じロケーションも何枚かあったりするのですが、見つけられず。おいおいゆっくり探そうかと。

宮芳平画文集どうしても欲しくなって買ってしまった画文集(求龍堂)です。東京まで出向いた際に、立川随一の書店、オリオン書房様で漸く見つけました。

印刷物である以上、実物の絵画とは色合いもタッチも異なると物だと理解した方が良いのですが、それでも添えられている文章を見る度に、展示内容そのままに掲載されている絵画の写真を眺める度に、本物の絵画を前にして感じた想いが甦って来るようです。詳細な解説文と本人の手による、ぐっと考えさせられる文章を読みながら絵と共に想いに浸ることが出来る、ちょっと素敵な「画文集」です。