ハヤブサへの深い愛と、柔らかくも先鋭な線描が見据える眼差しは今も。薮内正幸美術館の生誕80年・没20年記念企画展「鷲・鷹・梟」

ハヤブサへの深い愛と、柔らかくも先鋭な線描が見据える眼差しは今も。薮内正幸美術館の生誕80年・没20年記念企画展「鷲・鷹・梟」

ご案内 : 薮内正幸美術館は2020年5月18日から通常通り開館しています。なお、今年度は前期/後期の展示入れ替えを行わず、本文でご紹介いたします展示内容を11月末まで継続するとの事です。

朝日新聞の山梨県ローカル記事に展示内容が紹介されています。1枚だけですが写真も添えられていますので、雰囲気が伝わればと。

例年より1週間以上も早く桜が咲き始めた3月の終わり。

年度末締めの業務を片付けに出社した土曜日。仕事が片付いて少し時間が空いた午後のひと時、帰宅の途中、何時かは訪れてみたかった場所に立ち寄ります。

暖かな雨に乗って樽香漂う、まだ春浅い午後の森。南アルプス、甲斐駒ヶ岳の麓に広がるサントリー白州蒸留所に隣接するゲストハウスの更に奥の方に、小さな美術館が建てられています。

数々の絵本や物語の挿絵。サントリーの環境保護(メセナ)活動をPRする新聞広告に連年掲載された、驚くほど細密な鳥たちの絵画。釜無川を渡って反対側に聳える八ヶ岳の山懐にある清泉寮のお土産では常に人気のある、山里の鳥たちやヤマネの可愛らしくも細密な絵画が施されたノベルティの原画でも知られる、動物画家、故・薮内正幸氏の作品を管理、収蔵する、日本唯一と称される動物画専門の美術館、薮内正幸美術館です。

例年、オフシーズンの冬季は休館。シーズン中は大変人気のあった作家さんの美術館で場所柄も地域有数の人気施設である蒸留所の隣という事もあり、相応に来訪者が多い場所(館長さんのご見解はちょっと異なるようですが)のため、地元民としてはやや近寄りがたいスポット。これまで訪問するのをちょっと避けていました。

桜のシーズンにはまだ早い3月末。静かで殆ど人気を感じる事のない、葉を落とした明るい森の中に佇む小屋のような小さな美術館。常連の方がテーブルで寛ぐロビー脇のノベルティを扱うコーナーの奥、片隅に作者の作業場を再現したコーナーが設けられた、20人ほど集まれば人でいっぱいになってしまうであろう展示室が一つだけ。前後期制で作品を入れ替えるスタイルを採っているため、1万点以上といわれる氏の遺された作品が常に入れ替えられる形で展示されます。

今回是非訪れてみたかった、大好きな猛禽類をテーマにした企画展示。頂いたパンフレットを拝見すると、あらゆる鳥類、生き物たちの絵画を描き続けた氏にして愛してやまなかったのが猛禽類であったと述べられていることにちょっと驚きながら。

展示内容は大きく分けて4セクション。壁に沿った順路は晩年の線描作品から始まり、一番奥の壁に掲げられた、背の丈程もあるイヌワシの実寸大水彩画をはじめとした3点の大作をメインとしたカラー作品。後半は日本野鳥の会の編集で刊行された「みる野鳥記17 タカのなかまたち」(あすなろ書房、絶版)に使用された原画の展示。中央部には氏のスケッチや本制作前の下絵を含む小作品が並べられており、小さな展示室で猛禽類とテーマを絞りつつも、かなりのボリュームとバラエティに富む、氏の作品の多様さが展示内容からも伺えます(1960~70年代のイラストやスケッチには、繊細な描画で知られる氏の作風とは正反対の、ルオー等を意識されたと思われる、夕暮れの姿を捉えた抽象画的な作品もあって、ちょっと驚きました)。

今回の企画展展示のハイライトにして氏の代表作でもある、キャンバス地の質感すらもその中に織り込み描かれる、イヌワシの風切羽が魅せる深く繊細な質感(作業場を復元したコーナーの壁に飾られた、額装された風切羽のコレクションを見た瞬間、本当に好きだったのだなと、改めて理解しました)。同じ筆で描かれているはずなのに、全く違った印象を与えるふくよかな胸の羽との対比。福音館書店時代に学んだとされる、博物学に基づく正確な観察眼とち密な描写が描き出す姿は、所謂博物学的な写実、細密画とはちょっと異なる感じを受けます。

展示の前半に並べられた、落ち着いてかつ、ひんやりとしたペンのタッチが重ねられた、晩年に描かれた鳥たちの姿。正確に捉えて描くこと自体は水彩で描かれた作品と線画のそれに違いはありませんが、単色インクの線を重ね(一部にホワイトも用いて)描かれる絵には写実とは別の姿が宿っているようです。

鳥の名前と制作年以外、一切の解説文もなく、唯、絵と向き合う時間。氏の作品に共通する、どのような生き物でも、どのようなポーズを取っていても、こちらを射抜くように向けられる「視線」。ち密に積み重ねられた線描の中に描き込まれた視線のその先に、彼らの理知的な個性と共に、氏の生き物たちに対する深い敬意と尊敬の想いが映し出されるかのようです。

そして、企画展のテーマでもある氏の猛禽類への想い。展示コーナーの片隅に置かれた、多くの方が閲覧されたクリアファイルに挟まれたカラーコピーに複写された、氏が15歳の頃から描き始めたという図鑑の模写も、もちろん猛禽類たちがメインに描かれていますが、展示を一巡して印象的だったのが、日本を代表する猛禽類であるハヤブサたちへの強い思い。展示の後半に掲げられた数々の原画にも見える、実際のタカたちの生態を捉えた水彩画の中から湧き上がる愛情。中でも小さくて俊敏、獰猛でもちょっとした愛らしさもあるハヤブサの仲間たち。手軽に書かれたイラスト、晩年の精緻な線描、ガラスケースに収められた伊良湖岬で連年観察を続けた際のスケッチに添えられたコメント、そのいずれもに、他の生き物たち以上にハヤブサへの愛情を感じる筆致が込められているように思えます。

著者のイラストが用いられた豊富なノベルティも展示販売されている美術館のロビー。談笑されていた方がお話されていた内容にもしやと思っていたのですが、訪問した翌日から今回の企画展に合わせた猛禽類たちのノベルティ(今回の企画展を記念して特別に制作されたハヤブサの横顔が描かれた素敵なサコッシュ、欲しかった)の取り扱いを開始されたようで、相変わらずの間の悪さに少し落ち込みながら(近場なんだからとっとと買いに行けば…自分)。

魚類が好きな私にとって、氏の作品に出てくる魚たちは何時も鳥や動物たちの獲物と少々可哀想な扱い。まあ仕方がないよなと思っていた中で、氏の作品を特徴づける澄んだ目と生き生きとした線描で描かれた川の魚たちのイラストカードを見つけてちょっと嬉しくなった午後のひと時。

また、精緻な描写からちょっと気難しい方だったのではないかと思っていたのですが、実はシュールなイラストを集めたこんな作品集も(動物園関係の専門雑誌に連載していた際に描かれたイラストを出稿する際に収めた封筒に添えられた、駄洒落を効かせた架空の動物たちと掲載イラストをペアで紹介するイラスト集。これらの絵を描く際の氏をファンの皆様の間では「裏ヤブ」と呼ぶそうです。

氏の大好きな想いを込めた作品たちを集めた素敵な企画展と、氏の想いを受け継ぐ多くの方々に守られた、南アルプスの山懐に抱かれる小さな美術館。

遺された膨大な作品たちが、何時でも皆さんの来訪を待っています。

南八ヶ岳周辺の博物館・美術館の企画展情報(2020年春・夏シーズン)

南八ヶ岳周辺の博物館・美術館の企画展情報(2020年春・夏シーズン)

[2020.7.6更新]
休館中、一部休館の施設一覧を冒頭に掲載します。
なお、来訪時には各施設、地元各自治体より提供されている情報に最大限配慮願いますよう、お願いする次第です。

一部の施設では事前予約制を実施、当日も入館人数に制限が設けている施設もありますので、訪問される際にはに事前に各施設へご確認くださいますようお願いいたします。

(掲載施設は八ヶ岳山麓の公立博物館、美術館、八ヶ岳ミュージアム・リング参加施設のうち、情報が確認できる施設に限ります)

本ページは、企画展の情報等を逃して悔しい想いを何度もしている自分の為に用意した備忘録です(地元に住んでいても情報は全然入って来ませんし、今日までで終了の企画展でも気が付けなかったものがいっぱいある…涙々)。私自身が訪れた事のある施設を中心に掲載しておりますので、かなり偏った掲載内容になっている点はご容赦ください。

情報のソースは各施設、観光案内施設やショッピングモールなどで配布されている展示会の公式パンフレット、地元新聞社、放送局による紹介、SNS等による発信内容を用いていますが、最終的な確認については各施設のホームページ掲載内容に基づきます。

なお、南八ヶ岳周辺にある各施設の概要についてお知りになりたい方は「八ヶ岳ミュージアム・リング」(八ヶ岳ミュージアム協議会)という公式サイトがありますので、そちらをご覧ください(但し、更新頻度が極めて低く、企画展などの情報もありません)。

【八ヶ岳東麓(小海、野辺山方面)】

  • 小海町高原美術館
    • 国道141号線、松原湖交差点から松原湖方面へ10分(松原湖から5分ほど)。タクシー、バスをご利用の方は小海線の小海駅から(バスの本数は僅か)。広い駐車場がありますが、お隣の日帰り温泉と共用の為、シーズン中や新海誠監督関連のイベント開催時は混雑します。
    • 開催中の企画展 : 口から入って、届くまで 東条真之介(2020/4/4~7/26)
    • 過去の企画展 :北欧の灯り展(2019/9/7~2019/11/4)
      • オープニングセレモニー9/7(土)
      • 企画者による講演会9/8(日)小海町高原美術館
  • 南牧村美術民俗資料館
  • 国立天文台 野辺山
    • 国道141号線、JR最高地点にある看板の指示に従って小海線の側道を直進、突き当たりの踏切を渡って(右側の道)2分程。小海線、野辺山駅からは徒歩20分ほど。駐車場有。
    • 現在開催中の企画展 : 4次元デジタル宇宙シアター(4D2Uシアター)12/7から3/28までの冬季上映は、年末年始以外の毎週土曜に3回、各回定員30名で先着順です

【八ヶ岳南麓(清里、長坂、大泉、白州方面)】

  • 清泉寮やまねミュージアム
    • 中央道、長坂インターから五町田の信号を左折して県道北杜八ヶ岳公園線を清里、八ヶ岳高原大橋方面へ北上、八ヶ岳高原大橋を越えて登坂車線付きの道を登った先にある「清泉寮」方面看板の指示に従って進む。国道141号線方面からは清里の交差点を越えた先の、清里トンネル東交差点を八ヶ岳高原道路方面へ左折、清里トンネルを抜けた先にある同じ看板の指示に従って進む。清泉寮の向かい側にある、県立八ヶ岳自然ふれあいセンターの奥にあります。小海線、清里駅からは観光周遊バスが利用可能です。駐車場は清泉寮もしくは県立八ヶ岳自然ふれあいセンターを利用。
    • 開催中の企画展:
    • 過去の企画展 : 開催中の企画展はありません。次回のギャラリートーク「研究員に聞け! 冬の巻」は、ヤマネの冬眠期間中となる来年2/9(日)です
  • 清里フォトアートミュージアム
    • 国道141号線、丘の公園交差点を入った先ですが、ルートがやや複雑なので、心配な方はナビへの入力ないしは、事前に地図をご用意の上で、お越しください。駐車場有。
    • 開催中の企画展 : 2019年度ヤング・ポートフォリオ(2020/7/1~11/8)
    • 過去の企画展 : 山本昌男「手中一滴」展(2019/10/5~2019/12/8)
      • 出展者によるアーティスト・トーク10/26(土)
    • 過去の企画展 : ロバート・フランク展-もう一度、写真の話をしないか。(2019/6/29~2019/9/23)
      • ピーター・バラカン Live DJ「ロバート・フランクの写真・アメリカ・それから」9/21(土)
  • 北杜市考古資料館
    • 中央道、長坂インターから五町田の信号を左折して県道北杜八ヶ岳公園線を清里方面に北上、若林交差点を小淵沢方向に左折、旧大泉村役場跡の向かい側にある北杜市金田一春彦記念図書館を左手に見て過ぎた先の交差点に掲げられた看板の指示に従って谷戸城跡方向に左折して1分程。中央本線、長坂駅から市民バスも利用可能ですが本数は僅か。駐車場はありますが10台未満。
    • 開催中の企画展 : 共同企画展『捕る・採る・摂る 山麓の縄文食』(2020/7/7~11/23)
    • 過去の企画展 : 「黒き星のかけら~黒曜石と八ヶ岳山麓の縄文世界~」(2019/10/26~2020/1/26)
      • ギャラリートーク : 11/2(土)、12/14(土)、1/19(土)
      • 講演会「八ヶ岳山麓の縄文遺跡を中心とした黒曜石ネットワーク」11/24(日)
    • 過去の企画展 : 共同企画展「ワンダフルジャーニー 星降る八ヶ岳山麓の縄文文化」(2019/7/6~2019/11/24)
  • 北杜市郷土資料館
    • 県道17号線七里岩ライン、長坂駅手前の信号を小淵沢方面に入りガードを潜った先の交差点を白州方面へ左折、谷筋を越えた先にある「清春白樺美術館」の案内看板が出ている交差点を右折してすぐ。国道20号線方面からは台ヶ原中交差点を曲がって峠道を登り切った先にある前述の看板に従って左折してすぐ(清春白樺美術館の向かい側)。中央本線、長坂駅から市民バスも利用可能ですが本数は僅か。駐車場有、満車の場合は向かいの清春白樺美術館の駐車場も利用可能。
    • 開催中の企画展 :
    • 過去の企画展 : 「動物の神様」(2019/7/13~2019/10/27):終了
      • ギャラリートーク : 9/14(土):終了、10/13(日):終了
      • 講演会「御坂のニホンオオカミ頭骨と甲斐周辺の狼信仰」10/6(日)
  • 北杜市オオムラサキセンター
    • 県道17号線七里岩ライン、日野春陸橋を越えた先にあるオオムラサキセンター交差点を曲がってすぐ。中央本線、日野春駅から徒歩1分。駐車場有。
    • 開催中の企画展 :
    • 過去の企画展 : 特別展「太古の虫たち」(2019/9/10~2019/12/27)
  • 藪内正幸美術館
    • 国道20号線、鳥原の交差点を曲がって、サントリー白州蒸留所へ。工場に入る手前の交差点を左折、200m程先にある案内看板に従って右折して1分ほど。バスは韮崎駅から国道20号線経由の下教来石行きに乗車して松原下バス停で下車、もしくは小淵沢駅から発着するサントリー白州蒸留所行きの見学バス(3月~11月の主に土曜休祝日とGW、夏休み中の運行)に乗車して工場から徒歩、いずれも15分ほど。駐車場有。
    • 開催中の企画展 : 2020年前後期企画展「鷲・鷹・梟」(2020/3/20~2020/11/30)
    • 過去の企画展 : 2019年度後期企画展「おなじみのどうぶつたち」(2019/7/20~2019/11/30)

【八ヶ岳西麓(富士見、原村、茅野、諏訪方面)】

  • 神長官守矢史料館
    • 中央高速、諏訪インターを降りて右折、陸橋脇をビーナスライン方面に入ってすぐの荒井交差点を右折(立体交差の下を潜る)、突き当たりの高部東交差点を右折して1分ほど、高部交差点の先。中央本線、茅野駅からバスもあり(茅野駅から徒歩でも行く事は可能ですが、お勧めしません、凡そ40分)駐車場はありますが、数台に限られます。
    • 今後の企画展 : 武将からの手紙(2020/8/8~10/11)
    • 過去の企画展 : 守矢文書に見る 改元・元年の古文書(2020/1/4~2/11)
  • 諏訪市博物館
    • 中央高速、諏訪インターを降りて左折、飯島交差点を諏訪大社方向に左折して5分弱、諏訪大社上社本宮正面。中央本線、上諏訪駅からバスもあり(茅野駅から徒歩で行く事も可能ですが、お勧めしません。凡そ45分)。駐車場有。
    • 開催中の企画展 : 諏訪大社上社下社の算額(2020/7/4~10/4)
    • 過去の企画展 : 企画展「仏法紹隆寺-諏訪の真言道場 古刹の歴史-」(2019/9/14~2019/11/24):終了
      • 講演会「仏法紹隆寺の仏像-普賢菩薩騎象像と不動明王立像について-」10/13(日)
      • 展示説明9/15(日)、10/12(土)
  • イルフ童画館
    • 中央高速、岡谷インターから下諏訪方面へ向かい、岡谷インター東交差点を岡谷方向へ曲がって5分ほど、イフルプラザ内。中央本線、岡谷駅からは徒歩3分。駐車はイルフプラザの市営立体駐車場(5時間まで無料)へ。
    • 開催中の企画展 : 武井武雄 七つの顔展(2020/2/29~7/6)
    • 今後の企画展 : まど・みちお展(2020/7/11~8/31)
    • 過去の企画展 : 黒井健 絵本原画展(2019/12/21~2020/2/24)
    • 過去の企画展 : 加藤休ミ展 おいしい たのしい クレヨン画(2019/9/28~2019/12/16)
      • 読み聞かせと演奏会、サイン会10/14(月・祝日)
    • 過去の企画展 : うらしまたろう展 あんな浦島 こんな乙姫(2019/7/20~2019/9/23):終了

他にもご紹介したい施設は沢山ありますが、とりあえず此処まで。