今月の読本「ライチョウを絶滅から守る!」(中村浩志・小林篤 しなのき書房)もう躊躇は出来ない、第一人者の想いとこれから

今月の読本「ライチョウを絶滅から守る!」(中村浩志・小林篤 しなのき書房)もう躊躇は出来ない、第一人者の想いとこれから

New(2019.10.17):本書の共著者である中村浩志氏(現:財団法人中村浩志国際鳥類研究所代表理事)を題材にしたドキュメンタリーが放映されます。以下のリンクから2分ほどのイントロダクションが視聴できます。

放送は10/20(日)6:10から、NHK総合です。

 

<本文此処から>

高山に舞い降りる神の使い、雷鳥。

厳冬の雪山、丸々と膨らんだ可愛らしい姿で白銀の中を歩き、夏場になるとハイマツ越しに登山者が触れられそうな目の前を悠然と往くその姿に魅了される方は数多くいらっしゃるかと思います。一方で、危機的な状況が伝えられるその生息環境と生息数。繰り返し報道される保護活動と相対する高山植物の植生崩壊、更には想定外の天敵に捕食されるシーン。そのいずれの場面にも登場されるライチョウ研究、保護活動の第一人者である著者が、後継者と目される若き研究者と共著と言う形で著された、最新動向を綴る一冊が上梓されました。

今回は「ライチョウを絶滅から守る!」(中村浩志・小林篤 しなのき書房)をご紹介します(版元さんのHP更新が止まっておりますので、リンクはAmazonです)。

前著「二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ」(農文協)から5年。その間にライチョウを取り巻く環境は大きく変化しましたが、それは著者にとっても同じ。豊富な著作を有する一方で、前著では研究を継承する立場であった著者が、今度は自らの名を冠した研究所を開設し、研究を次世代へと引き継ぐ立場に至った心境を踏まえた著述となっています。

まず、日本におけるライチョウの生活環境や繁殖、日本人の山岳に対する想いとライチョウといった著者にとっての一般論と言える部分は前著をほぼ踏襲していますので、前著を読まれた方にとってはかなりの部分が重複する内容になるかと思います(本書では抜粋に近い形での掲載になります)。

その上で、本書は著者が自らの研究所を立ち上げる直前から、以前にも増して積極的な活動をアピールする形でその成果や自らの活動、各地で展開されている活動に対する想いを述べていきます。しかしながら、そのアピールや提言、実際の活動内容については前著以上にある種の懸念も付き纏います。

日本における自然保護の根底にある、ある種の無謬性への憤り。手つかず、ありのままの姿という名で語られる、無改変であることを尊ぶ見解や抑制的な保護活動に対する強烈な反論。人を恐れないと云われるライチョウの無防備性自体が日本人と自然の関わり方の尊さ、共存の姿を象徴すると述べる一方で、積極的と言う言葉を越えた人為的な強制介入ともいえる現在の保護活動と、最新の研究成果も織り交ぜた一連の域外保全政策に対するフィールド研究者としての現時点ではやや否定的な見解。

ある意味苛烈とも捉えられる論旨が所々に含まれますが、そこまで一線を越えた活動を続けなければ種の滅亡に直面してしまうという、極めて危機的状況にあるという認識を繰り返し述べていきます。

50歳を過ぎてから前任者を引き継ぐ形で始めた著者のライチョウ研究。本意ではなかった研究から更に本意から外れる形で否応なく向き合うことになった現在の保護活動の姿を詳述する本書。既に70歳を過ぎた著者自身が、今度は研究と保護活動を永続化し後進へとバトンタッチする事も念頭に置いた、市民も参加する保護活動の一端を紹介しつつ、著者と同じように本意を曲げて研究、保護活動の道を歩み続ける共著者への強い想いを述べて筆を置いています。

地元出版社から刊行された本作品。長野県下以外の本屋さんで手に取る事は難しいかもしれませんが、報道等で繰り返し伝えられるライチョウ生息環境の急激な変化や、人工繁殖、保護活動の話題に関心がある方。更には、その愛らしいライチョウの姿に魅せられ、ご興味を抱かれた方にも一緒に読んで考えてみて頂きたい一冊。

長期に渡る低地での人工繁殖に一度は断念するも、類似種であるスバールバルライチョウ(写真)の飼育によるステップを経て、再びライチョウの人工繁殖に挑んでいる、大町山岳博物館

本書でも、4世代まで繋ぐ事が出来たその飼育実績を踏まえて、他の施設とは異なる飼育方法、餌の選定で人工繁殖に挑んでいる事が述べられています。

また、動物園関係者や獣医師の知見も踏まえて、フィールド観察から得られた親の盲腸糞を雛が食することによる腸内細菌の増加と感染症への耐性獲得の示唆といった、大町山岳博物館が超える事が出来なかった、継続的な域外保全の鍵となる知見も得られるようになってきています。

多くの方々に関心を持って頂く事で、より一層の保全活動に繋がる事を願って。

ライチョウの里で愛おしいその姿に向き合う想いに触れる(大町山岳博物館と高橋広平氏の雷鳥写真展)

ライチョウの里で愛おしいその姿に向き合う想いに触れる(大町山岳博物館と高橋広平氏の雷鳥写真展)

北アルプスを正面に望む山懐に広がる、信濃大町。

ここには、ユニークな展示内容と極めて珍しい飼育実績を有する存在で知られる、個性的な市営博物館が存在します。

登山と山岳の自然というテーマを掲げる一方、昨年から始まったライチョウの繁殖計画より遥か以前の1963年から低地でのライチョウの飼育に着手し、その後も2004年まで細々とではありますが繁殖活動を続けていた「大町山岳博物館」です。

大町山岳博物館正面玄関正面に展示されたカモシカ親子のブロンズ像がシンボルの博物館正面。

今日は昨日より始まった写真家、高橋広平氏の初めての個展「雷鳥 ~四季を纏う神の鳥~」を見学にやって来ました。

大町山岳博物館、高橋広平写真展以前に展示内容については、こちらのページでご紹介しておりますので割愛しますが、どの展示も個性的で興味深いので、何度でも繰り返し見てしまいます。

今回もぐるっと展示を観てから、写真展の方に移りました。

今回の写真展、昨年安曇野の田淵行男記念館(と、富士フィルムのギャラリー)で開催された写真展と同じスライドを使用している作品もありますし、スペース的にも決して広い訳ではありません。

しかしながら初の個展という事もあり、写真のサイズもこれまでの展示では小さめのスライドだったものも思い切って大伸ばしにされ、バリエーションも豊富に。更にレイアウトやコメント、併せて展示されている高山の動植物の写真にも氏の拘りが感じられる展示内容になっています。今、日本で見られる最もクオリティの高い、そしてちょっと和ませるライチョウの写真がびっしりと詰まった、濃密な写真展です。

そして、是が非でもモノにしたかったという「ICHIGO DAIFUKU」の写真も貴重な1カットだけですが、その撮影条件と、どのような状況で生じるのかの解説と共に紹介されています(内容はもちろん撮禁なので、ご自身の目でお確かめください)。

高橋広平氏の雷鳥写真集今回の写真展に合わせて大町山岳博物館が刊行した、氏にとって初の写真集。

展示されていた写真以外にも掲載されていますし、パネルの横に掲載されていたコメントも併せて読める親切仕様。じっくりおうちで眺めたい保存版なのですが…この写真集かなりの人気のようで、博物館の方も開催僅か2日目にして予想以上のペースで出ていて、会期末まで在庫が持つか焦るくらいの状況との事でした(昨日は、ご本人がいらっしゃったようなので更に)。

博物館の方も「これから人気出ちゃいそうですね」と仰る通りの、魅力的なライチョウの写真たちがぎゅっと詰まった素敵な写真集です。

大町山岳博物館ライチョウ解説展示1もちろん写真だけではなく、館内にはライチョウを専門に扱った展示解説も常設されています。貴重なはく製(大町山岳博物館展示の大きな特徴の一つは、精巧な動物のはく製たちです)を駆使して、ライチョウの生態解説が行われています。

大町山岳博物館ライチョウ解説展示2そして、この博物館の存歳意義を示す、ライチョウ飼育、研究の歴史について語るボードが、展示室の一番奥に掲示されています。

先駆的な低地でのライチョウ飼育の実践とその破綻。絶滅の危機に瀕しつつある中での、再挑戦への道筋。

それでは、博物館の裏側にある、付属動物園へ移動してみましょう。

大町山岳博物館スバールバルライチョウ飼育舎昨年から始まった、ライチョウ飼育の前段としてのスバールバルライチョウの飼育試験用施設(空調完備、表の展示室と、裏の飼育室が一体化した建屋が3棟と、管理棟1棟)。以前の劣悪とも評された飼育環境と比べると、環境省の予算が投じられたためでしょうか、格段の進歩です(富山同様、こちらもコンクリート打ち放しの床です)。昨年は展示室の中をよちよちと歩く、スバールバルライチョウが覗けたのですが、正面にロープが張られています。

大町山岳博物館スバールバルライチョウ展示中止告知文何と、飼育中の個体が相次いで死亡するトラブルが生じたとの張り紙が。

大町山岳博物館ライチョウ飼育舎1ガラス張りの空っぽの飼育舎が並ぶ、ちょっと陰鬱な雰囲気が漂いますが、一番奥の葦簀張りの一棟には、それを乗り越えようとする希望の鍵が大切に育てられています。

大町山岳博物館ライチョウ飼育舎2こちらが、非公開のライチョウの飼育舎。

理解を求める張り紙が掲示されています。

大町山岳博物館ライチョウ飼育舎3それでも、せっかく訪れてくれた来園者に少しでも楽しんでもらおうと、これまでの成長の様子が判るスライドが掲示されています。

一番右のスライドが最も最近の撮影(8/20)です。

6/30の孵化から約2ヶ月、すっかり大きくなりましたね。

大町山岳博物館よりの展望北アルプスの雄大な山並みを正面に、信濃大町の街並みを見下ろす、大町山岳博物館の3階ラウンジより。この時期に望む北アルプスは、何時も光のカーテン(天子の梯子とも)が掛かっているようです。

ちょっと残念な事も起きてしまいましたが、全ては試行錯誤の最中。

自然を相手に人工的な繁殖を行う事の厳しさは、昨年の上野動物園における全羽死亡という残念な結果を持ち出すまでもなく、常に付きまとう事。

それを乗り越えた先に、きっと新たな段階、人工飼育をしたつがいから生まれたライチョウたちが再び北アルプスの山々で、行き交う登山者の前を悠然と往く姿が見られる時が来ることを信じて。

大町山岳博物館のライチョウ関連パンフレット「雷鳥 ~四季を纏う神の鳥~」高橋広平写真展は11/27まで。

会期中の9/11(日)午後1時30分から、鳥類研究家の小林篤氏との対談会。11/3(文化の日)は作者自らのミュージアムトークが午前と午後の2回、実施されます。

市立大町山岳博物館企画展_雷鳥~四季を四季纏う神の撮り鳥~高橋広平写真展_パンフレット

更に、毎年開かれているライチョウ会議、今年のホストタウンは信濃大町です

10/15,16の両日に、大町市内と山岳博物館を会場に各種のイベントやシンポジウム、学術会議が開催されます。

ライチョウの事をもっと知りたい、直接会って話を聞いてみたいという方は、この秋は是非、大町に足を運んでみては如何でしょうか。